ASC 321 持分証券の会計処理と実務判断|FVTNI・原価例外・定性減損評価(US GAAP)
§0 この記事を読むと何ができるか
本記事は、親記事「US GAAP 有価証券の分類・測定と実務判断」で RDFV(readily determinable fair value)の有無による FVTNI/原価例外の入口判定を確認済みの読者向けに、その分岐先の測定・評価・開示の実務手順を深掘りする派生記事です。
本記事を読み終えると、次の4点を自力で実施できるようになります。
- RDFV の3条件を逐一確認し、自社保有の非上場株式や LP ファンド出資が原価例外の対象か FVTNI 対象かを判定できる(§4)
- 原価例外の正確な測定式(「原価 − 減損 ± 観察可能価格変動」)を正しく適用し、帳簿価額を計算できる(§5)
- ASC 321-10-35-3 の定性減損評価を各報告期間に実施する手順を追い、評価減の計上フローを確認できる(§6)
- ASC 321-10-50-3 と 50-4 の2本の開示要件を整理し、注記文案の枠を確認できる(§7)
§1 US GAAP 持分証券の全体構造(混同防止の最小確認)
ASU 2016-01 により、持分証券は原則として公正価値で測定し、すべての未実現損益を純利益(FVTNI)に計上する体制に移行しました(ASC 321-10-35-1)。OCI への振り分けは現行では認められていません。詳細な経緯は親記事 §4 をご参照ください。
測定の選択肢は FVTNI と原価例外(measurement alternative)の2択です。原価例外は RDFV のない持分証券についてのみ投資ごとに選択できます。
§2 スコープ境界——ASC 321 適用前の先行確認フロー
ASC 321 が適用される前に、以下の先行基準との関係を確認する必要があります。
2-1 先行基準との関係
持分証券の定義に該当する場合であっても、以下の基準が先行して適用される場合には ASC 321 は適用されません。
- ASC 323(持分法): 重要な影響力を有する場合(議決権割合 20% が一つの目安。実質判断)は持分法が先行。持分法の詳細は ASC 323 記事(作成予定)を参照
- ASC 815(デリバティブ): 売建オプション・現金決済オプション等はデリバティブとして ASC 815 が先行。詳細はデリバティブとヘッジ(ASC 815)を参照
- ASC 825(FVO): 公正価値オプション(FVO)を選択済みの場合は ASC 825 が適用
2-2 スコープ除外の主な例(ASC 321-10-20)
以下は持分証券の定義に該当しても ASC 321 のスコープから除外されます(ASU 2016-01)。
- 売建持分オプション(written equity option): 買手の権利ではなく売手の義務を示すもの
- 現金決済のみのオプション・証券指数を基礎にしたオプション: 所有権を示さないため除外
- 発行条件において強制償還される(または投資者のオプションにより償還される)転換社債・優先株式: 経済実態は債券であり ASC 320 の対象
2-3 ASU 2020-01(ASC 321/323/815 相互関係の明確化)
2020 年に公表された ASU 2020-01 は、ASC 321・323・815 の相互適用に関する解釈上の疑問を明確化しました。主な内容は、measurement alternative 適用中の投資が持分法へ移行する際の再測定タイミングと、Topic 321 対象証券を取得するための forward contract や purchased option の扱いの2点です(ASU 2020-01)。2026 年時点では全企業に適用済みです。詳細はデリバティブとヘッジ(ASC 815)および ASC 323 記事(作成予定)を参照してください。
§3 なぜ持分証券は原価のままでいられないか(背景と思想)
債券には満期という価値実現の手段がありますが、株式等の資本性金融商品には満期がなく、価値実現の主な手段は配当と売却です。FASB はこの経済的性質を踏まえ、持分証券を公正価値で継続測定することが財務諸表の有用性を高めるという結論に至りました(ASU 2016-01)。
「戦略投資」については、公正価値変動を OCI に振り向ける FVOCI オプションを設けるべきとの意見が市場参加者から出されました。しかし、ASU 2016-01 の BC によると、FASB は IASB が同様の審議を経て、戦略投資を原則主義的に定義することは困難であり財務諸表の有用性向上も必ずしも保証されない一方で複雑性が増す、との結論に至ったことを参照し、FVOCI オプションを採用しない選択をしました(ASU 2016-01)。
IFRS 9 は異なる判断をし、資本性金融商品に FVOCI オプションを設けています。ただし IFRS においても持分証券の評価損益がリサイクリングされない点は注意が必要です。詳細は IFRS 9 金融資産 Part-IV(FVOCI オプション)を参照してください。
§4 RDFV(readily determinable fair value)の判定実務
RDFV の有無は、持分証券が FVTNI 測定になるか原価例外の対象候補になるかを分ける最初の分岐点です(ASC 321-10-20)。
4-1 3条件の逐条確認
以下の条件のいずれか一つに該当すれば、その持分証券は RDFV ありと判定されます。
条件(a): SEC 登録証券取引所または店頭市場(NASDAQ 等)での売値または bid-and-asked 公示価格が現在利用可能であること。なお、制限付株式については、制限が1年以内に解除される場合は本条件に該当する可能性があります。
条件(b): 外国市場においてのみ取引される持分証券でも、その外国市場が米国市場と「比較可能な量と範囲(comparable breadth and scope)」を有する場合は該当します。
条件(c): ミューチュアルファンドまたは類似構造(リミテッド・パートナーシップ・VC エンティティ等)への投資で、1株当たり公正価値が決定・公表・現在の取引の基礎(currently available to the entity)となっている場合に該当します。
いずれの条件にも該当しない場合、その持分証券は RDFV なしと判定され、FVTNI または原価例外の選択が可能となります。
4-2 判定が難しい境界ケース(早見表A)
下表は判断の枠を示したものです。個別の投資についての会計判断は、読者・専門家が具体的な事実関係に基づいて行う必要があります。
| 投資の種類 | 確認すべき主な事実 | 判断の方向性(枠) |
|---|---|---|
| 米国証券取引所(NYSE・NASDAQ等)上場株式 | 取引所での売値・気配値が現在利用可能か | 通常は条件(a)に該当 → RDFV あり |
| 外国市場のみ上場株式 | その市場の量・範囲が米国市場と「比較可能」か | 個別確認が必要。比較可能性の判断は専門家に確認 |
| 制限付株式(Restricted Stock) | 制限が1年以内に解除されるか | 1年以内解除 → 条件(a)該当の可能性。契約内容の確認が必要 |
| VC・LP ファンドへの出資 | NAV が「取引の基礎」として継続的に使われているか(単なる参考情報でないか) | 境界ケース。NAV の公表・使用実態を個別確認 → 専門家判断必須 |
| 非上場普通株式(NAV 非該当) | 取引所・気配値・NAV のいずれかが利用可能か | 通常は RDFV なし → 原価例外の対象候補 |
VC・LP ファンドへの出資(条件(c)の境界): 条件(c)の「取引の基礎となっている」かどうかは、NAV が継続的に買付価格・売却価格として実際に使用されているかが一つの判断材料となります。NAV を投資家に報告しているだけで取引価格としては機能していない場合は、条件(c)に該当しない可能性があります。最終判断は個別の事実関係と専門家の確認が必要です。
4-3 各報告期間の RDFV 再評価義務
原価例外を選択した場合でも、各報告期間(each reporting period)ごとに、その投資が引き続き RDFV のない持分証券として適格かどうかを再評価する義務があります(ASC 321-10-35-2)。PBE(公開企業)については、四半期報告の実務上、各四半期末での確認が通常の実務として解釈される可能性がありますが、会社の報告単位に応じて確認してください。
RDFV が生じた場合(例:投資先が上場した場合)は、measurement alternative の適格性を失い、直ちに FVTNI 測定へ移行する義務があります。再評価の実施記録を各報告期間ごとに保管することが重要です。
§5 原価例外(measurement alternative)の測定実務
5-1 FVTNI 測定の確認(最小限)
RDFV のある持分証券、または RDFV がなくとも FVTNI を選択した場合は、各報告期間末の公正価値で測定し、すべての未実現損益(評価損益)を純利益に計上します(ASC 321-10-35-1)。OCI は使いません。別途の減損評価規定はなく、公正価値変動が随時 P&L に反映されます。詳細は親記事 §5 を参照してください。
5-2 測定式の正確な理解
measurement alternative の帳簿価額の測定式は以下の通りです(ASC 321-10-35-2)。
帳簿価額 = 原価 − 減損(if any)± 観察可能価格変動
この測定式について重要な点が二つあります。
第一に、measurement alternative は「原価モデル」ではない、という点です。「原価のまま据え置く」という誤解が生じやすいですが、実際には観察可能な価格変動が生じるたびに帳簿価額が変動し得ます。毎期一定額を維持するわけではありません。
第二に、この測定式に基づく観察可能価格変動の測定と減損時の公正価値測定はいずれも Topic 820 に準拠して実施します(ASU 2019-04)。これは ASU 2019-04 が明確化した点であり、非公開企業の実務においても Topic 820 の測定フレームワークが基盤となります。
5-3 観察可能価格変動(orderly transaction)の実務確認
測定式の「± 観察可能価格変動」が生じる条件は、「同一または類似の発行者の証券についての秩序ある取引(orderly transaction)での観察可能な価格変動」です(ASC 321-10-35-2)。
実務上、確認が必要な主な事実は以下の通りです。
- その取引が「秩序ある取引(orderly transaction)」か、すなわち forced sale(強制売却)でないことの確認
- 取引が市場の通常の慣行に基づいているか、十分な公開期間があったか
- 売り手が切迫した状況にあったかどうか
orderly transaction の判定の詳細は Topic 820 の原則に準拠します。判定の技法・実務例については公正価値測定(ASC 820)を参照してください。
上方調整(upward adjustment)について: 観察可能な価格が帳簿価額を上回る場合、帳簿価額を引き上げる上方調整が生じます。ASU 2016-01 の BC89 によると、観察可能な価格上昇により過去の減損が結果的に戻る場合がある、という整理です(ASU 2016-01 BC89)。ただし、上限の条文上の扱いについては原典(FASB ASC)での確認が望まれます。任意の見積り変更のみで戻入れを行うことは BC89 の趣旨に沿いません。
下方調整(downward adjustment)について: 観察可能価格が帳簿価額を下回る場合は帳簿価額を引き下げる下方調整が生じます。
観察可能な価格変動が確認されない期間: 当該期間中に orderly transaction が確認されなかった場合、帳簿価額は変動しません。ただし定性減損評価(§6)は別途実施する必要があります。
5-4 選択の単位と継続適用
measurement alternative の選択は投資ごと(ポートフォリオ全体での一括選択は不可)に行います。
一度選択した場合、適格でなくなるまで継続適用が求められます。ただし、原価例外を適用している企業が後から FVTNI 測定を自発的に選択することも可能です。自発的な FVTNI 選択は同一・類似の投資にも適用され、かつ取消不能(irrevocable)となります。
適格性が失われるタイミングとしては RDFV が生じる場合が主なものですが、RDFV の発生が適格性喪失の唯一の経路ではありません。RDFV が生じた場合は FVTNI 測定へ移行する義務があります。移行時における未計上評価差額の処理の具体的な仕訳表現は、個別の事実関係に応じて原典(FASB ASC)や専門家での確認が望まれます。
5-5 設例A: 原価例外の測定計算例(説明用の数値例)
前提条件
- 非上場株式 X(取得原価 500 万円)を原価例外で測定
- 当期において、類似証券について秩序ある取引が観察され、当初取得価格との比較で単価が 20% 上昇していることが確認された
- 翌期において、定性減損評価を実施した結果、減損の兆候を確認。Topic 820 に準拠して公正価値を測定したところ 430 万円と算定された
計算フロー
| 時点 | 計算 | 帳簿価額 | P&L への影響 |
|---|---|---|---|
| 取得時 | 取得原価 | 500万円 | — |
| 当期末(上方調整) | 500万円 × 1.2 = 600万円 | 600万円 | +100万円(有価証券評価益・P&L) |
| 翌期末(評価減) | 公正価値 430万円へ評価減(600万円 − 430万円 = 170万円) | 430万円 | −170万円(有価証券評価損・P&L) |
桁検算: 500 × 1.2 = 600(上方調整100万円)、600 − 170 = 430(翌期末帳簿価額430万円)✓
注意: 本設例の上方調整は過去に減損が発生していない局面での観察可能価格上昇であり、減損認識後の戻入れ上限(条文上の扱いは別途確認を要します)とは別の論点です。両者を混同しないよう留意してください。
仕訳の方向性(勘定科目名は企業の会計方針による)
- 当期末(上方調整): (借)投資有価証券 100万円 / (貸)有価証券評価益 100万円(P&L)
- 翌期末(評価減): (借)有価証券評価損 170万円 / (貸)投資有価証券 170万円(P&L)
§6 定性減損評価(ASC 321-10-35-3)の実務手順
6-1 評価実施のタイミング
原価例外を適用している持分証券については、各報告期間(each reporting period)ごとに ASC 321-10-35-3 の定性減損評価を実施する義務があります。条文は「各報告期間」(each reporting period)と規定しており、「毎年度末」に限定されません。PBE については、四半期報告の実務上、各四半期末での実施が解釈として有力とされる可能性がありますが、会社の報告単位に応じて確認してください。
評価を実施した結果「兆候なし」と結論した場合でも、評価を実施した事実と結論を記録に残すことが重要です(§8 参照)。
6-2 評価指標の一覧(早見表B)
ASC 321-10-35-3 が列挙する指標には少なくとも以下が含まれます。(「include, but are not limited to」型の条文。限定列挙ではありません。)現行 ASC Online テキストに追加指標がある可能性があります。
| 評価指標(321-10-35-3 が列挙) | 確認が必要な主な資料(枠) |
|---|---|
| 投資先の利益・信用格付け・資産の質・事業見通しの重要な悪化 | 投資先の財務データ(四半期・年次)・外部格付けレポート |
| 投資先に関連する法令・経済・技術的環境の重要な不利な変化 | 業界レポート・規制当局の通知・ニュースリリース |
| 投資先が活動する地域・産業の一般的な市場状況の重要な不利な変化 | 業界レポート・同業他社の財務動向 |
| 同一・類似投資について帳簿価額以下での誠意ある申込・売却申し出・競売手続きの完了 | 入札提示額の記録・第三者評価報告書 |
| 事業継続能力への重大な疑義(マイナスの営業CF・運転資本不足・法令の資本要求違反・負債の契約条項違反・継続企業懸念等) | 投資先の CF 計算書・継続企業の前提に係る開示 |
| (現行 ASC にはこの他にも考慮すべき指標が含まれる可能性があります) | — |
表の各行は評価の枠として提示しています。個別の投資についての評価は読者・専門家が具体的な事実関係に基づいて行ってください。
6-3 評価の手順と判断の枠
6-4 減損認識後の上方調整の扱い
減損を認識した後に観察可能な価格が上昇した場合、ASU 2016-01 の BC89 の趣旨によると、観察可能な価格上昇により過去の減損が結果的に戻る場合があるとされています(ASU 2016-01 BC89)。この場合、帳簿価額が上方調整により増加し得ます。
ただし、「旧帳簿価額(減損前の原価)が上限」となるかどうかは、条文上の扱いを原典(FASB ASC)で確認する必要があります。また、観察可能な価格変動という客観的根拠なしに、任意の見積り変更のみで帳簿価額を引き上げることは BC89 の趣旨に沿いません。
6-5 設例B: 定性減損評価のワークシート骨子(説明用の数値例)
前提条件
- 非上場株式 Y(帳簿価額 800 万円)を原価例外で測定
- 当報告期間中に以下の事実を確認
指標の当てはめ
| 確認した事実 | 該当する指標 | 評価 |
|---|---|---|
| ① 投資先が2四半期連続で純損失を計上 | 投資先の利益の重要な悪化 | 指標に該当 |
| ② 投資先業界で大幅な規制強化の公表 | 法令・経済・技術環境の重要な不利な変化 | 指標に該当 |
| ③ 第三者から買収提示額 650 万円(帳簿価額 800 万円 > 提示額 650 万円) | 帳簿価額以下での誠意ある申込の完了 | 指標に該当 |
上記3指標に該当 → 減損の兆候あり → Topic 820 に準拠して公正価値を測定
公正価値測定結果(仮設): 700 万円(Topic 820 Level 3 で測定)
評価減の計算:
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 帳簿価額 | 800万円 |
| 公正価値(Topic 820 測定) | 700万円 |
| 評価減(P&L 計上額) | 100万円 |
| 評価減後の帳簿価額 | 700万円 |
桁検算: 800 − 700 = 100(評価減)、800 − 100 = 700(評価減後帳簿価額)✓
仕訳の方向性: (借)有価証券評価損 100万円 / (貸)投資有価証券(原価例外)100万円(P&L)
評価後は「兆候ありと判断した根拠」「公正価値測定の Level 分類・測定技法・入力値」「P&L 計上の仕訳記録」を証跡として保管します。
§7 開示の実務整理(ASC 321-10-50-3 と 50-4)
7-1 開示2本の分担(早見表C)
| 開示条文 | 適用対象 | 開示内容の骨子 | 本記事での扱い |
|---|---|---|---|
| 321-10-50-3 | measurement alternative 適用中の投資 | 帳簿価額・減損累計・下方調整累計・上方調整累計・narrative 開示 | §7-3(開示骨子) |
| 321-10-50-4 | 持分証券全般(FVTNI 含む) | 未実現損益の分解開示算式 | §7-2(算式確認済み・設例C あり) |
| 321-10-50-2B | measurement alternative の再測定イベント | Topic 820 との重複排除 | §7-4(ASU 2019-04 新設・本記事初出) |
7-2 321-10-50-4 の未実現損益の分解開示(算式と設例C)
P&L が表示される各期間について、企業は以下の算式で計算された「報告日現在で保有している持分証券の報告期間の未実現損益」を開示します(ASC 321-10-50-4)。
「持分証券について当期間に認識された純損益」 − 「当期間に売却された持分証券の当期間の純損益」 = 「報告日現在で保有している持分証券の報告期間の未実現損益」
設例C: 50-4 開示の数値例(説明用の数値例)
前提条件
- 当期間中に FVTNI 測定の持分証券で評価益 60 万円を認識(P&L 計上済み)
- このうち 20 万円は当期中に売却した持分証券に係る損益(売却済み)
- 残り 40 万円は期末日現在も保有している持分証券に係る損益
50-4 開示の計算
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 当期間に認識された純損益(FVTNI 評価益) | 60万円 |
| 控除: 当期間に売却された持分証券の当期間の純損益 | (20万円) |
| 報告日現在で保有している持分証券の未実現損益 | 40万円 |
桁検算: 60 − 20 = 40(未実現損益)✓
7-3 321-10-50-3 の measurement alternative 適用時の開示
321-10-50-3 に基づき、measurement alternative を適用している投資についての開示が必要です。開示の骨子は以下の通りです。
- 帳簿価額(carrying amount)の開示
- 減損・下方調整の累計額(年次累計・当期)の開示
- 上方調整の累計額(年次累計・当期)の開示
- 観察可能価格変動や帳簿価額に至った情報を読者が理解できる narrative disclosure
開示の詳細な文言・範囲については、FASB ASC(原典)での確認を推奨します。
7-4 321-10-50-2B(ASU 2019-04 新設・Topic 820 との重複排除)
これは本記事で初めて整理する論点です。ASU 2019-04 が追加した ASC 321-10-50-2B により、measurement alternative の再測定イベント(観察可能価格変動・減損)は Topic 820 の nonrecurring fair value measurement に該当するとして整理されました。
重要な実務上の含意として、ASC 321 の開示要求が Topic 820 の開示要求を満たす範囲では、重複して Topic 820 の開示を行う必要がない(重複排除)点が明確化されています。ただし、公正価値測定の Level 分類・測定技法・入力値の詳細開示については Topic 820 の要求も参照が必要です。詳細は公正価値測定(ASC 820)を参照してください。
§8 監査証跡として整備すべき文書の枠
以下は各報告期間に整備すべき文書の確認観点を枠として整理したものです。個別の会計判断・監査判断は読者・監査法人が具体的な事実関係に基づいて行ってください。
確認観点1: RDFV 判定記録(各報告期間ごと)
- 3条件(a)(b)(c)の逐一確認記録(条件別の該当/非該当と判断根拠)
- 判定根拠となる実物(取引所の公示価格データ・NAV 報告書・取引記録等)
- RDFV が「生じた」「消えた」場合の記録(FVTNI 移行の起点として保管)
確認観点2: 原価例外の選択・継続適用の記録
- 投資ごとの原価例外選択記録(選択時期・対象投資・継続適用の方針)
- 各報告期間の「適格性維持」確認記録(RDFV が生じていないことの確認)
確認観点3: 観察可能価格変動の確認記録(各報告期間)
- 当期中に同一・類似証券の orderly transaction が確認されたか否かの記録
- 確認された場合: 取引の概要(日付・価格・orderly transaction 判定の根拠)
- 確認されなかった場合: 積極的に確認し「該当なし」と結論した事実の記録
- 上方調整・下方調整の計算根拠と仕訳記録
確認観点4: 定性減損評価の実施記録(各報告期間)
- 321-10-35-3 の指標を考慮した評価ワークシート(投資ごと・期別に更新)
- 各指標への「該当 / 非該当 / 確認不能」の判断と根拠(確認資料への参照)
- 兆候があった場合の公正価値測定根拠(Topic 820 Level 分類・入力値・測定技法)
- 兆候があった場合の P&L 認識の仕訳記録
- 兆候がなかった場合も「評価を実施した事実と結論」を記録に残す
確認観点5: 開示の整合確認
- 有価証券台帳(原価例外別・帳簿価額・累計下方調整額・累計上方調整額・累計減損額)
- 50-3 開示(narrative 開示)と台帳の数値の整合確認
- 50-4 開示(未実現損益算式)と当期 P&L 認識額・売却損益の整合確認
- 50-2B(Topic 820 との重複排除の確認)
証跡様式の枠
| 証跡文書 | 更新タイミング |
|---|---|
| RDFV 判定チェックリスト(投資ごと・3条件の確認結果) | 各報告期間末 |
| 定性減損評価ワークシート(321-10-35-3 指標 × 投資先別) | 各報告期間末 |
| 観察可能価格変動確認メモ(orderly transaction 判定根拠・価格・日付) | 都度作成 |
| 有価証券台帳(原価例外別・帳簿価額・累計調整額) | 期末更新 |
| 50-3/50-4 開示下書きと F/S 数値との整合確認チェックシート | 開示時作成 |
§9 隣接論点・グレーゾーン(Q&A)
以下の Q&A は判断の枠を示したものです。個別の判断は専門家にご確認ください。
Q1: measurement alternative(原価例外)と IFRS の「原価モデル」は同じか?
A: 異なります。IFRS 9 の資本性金融商品は FVTPL または FVOCI のいずれかで測定されるため、「原価評価」という選択肢は存在しません。したがって ASC 321-10-35-3 相当の定性減損評価義務も IFRS 9 にはありません(FVTPL の場合は公正価値変動が随時 P&L に反映されるため、別途の減損評価が不要という論理は ASC 321 の FVTNI と共通です)。IFRS 9 の詳細は IFRS 9 金融資産 Part-IV(FVOCI オプション)を参照してください。
Q2: VC・LP ファンドへの出資はどの RDFV 条件に当てはまるか?
A: 条件(c)が該当候補となります(「1株当たり公正価値が決定・公表・現在の取引の基礎となっている」ミューチュアルファンドまたは類似構造への投資)。「取引の基礎となっている」かどうかは、NAV が継続的に実際の取引価格として使用されているかを個別確認する必要があります。§4-2 のグレーゾーン1を参照してください。最終判断は専門家への確認が必要です。
Q3: 原価例外を選択した後に RDFV が生じたらどうするか?
A: measurement alternative の適格性を失い、FVTNI 測定(ASC 321-10-35-1)へ移行する義務があります(ASC 321-10-35-2)。移行時における原価と公正価値の差額の P&L 認識の具体的な処理は、個別の事実関係に応じて原典(FASB ASC)や専門家での確認が望まれます。本記事では移行の義務が生じることまでを整理しています。
Q4: 持分証券の減損は「一時的か永続的か」の2ステップ判断を行うのか?
A: 行いません。ASU 2016-01 により、FVTNI 測定の持分証券には旧 OTTI(other-than-temporary impairment)モデルが廃止されており、公正価値変動がすでに随時 P&L に反映されるため、別途の減損モデルは存在しません。原価例外の持分証券についても、旧 OTTI の2ステップではなく ASC 321-10-35-3 の定性評価のみが適用されます。
Q5: 持分証券に対して ASC 326(CECL)の適用があるか?
A: ありません。§1 の混同防止コールアウトで整理したとおり、ASC 326-20(HTM 債券の CECL)および ASC 326-30(AFS 債券の allowance 方式)はいずれも債券のモデルであり、持分証券には適用されません。
§10 隣接論点・関連記事へのナビ
| 論点 | 参照先 |
|---|---|
| 有価証券の分類判定フロー全体・ASU 2016-01 の経緯 | US GAAP 有価証券の分類・測定と実務判断(親記事) |
| IFRS の資本性金融商品(FVOCI オプション)との比較 | IFRS 9 金融資産 Part-IV(FVOCI オプション) |
| 公正価値測定の技法(Level 1/2/3・NAV 実務例外・orderly transaction の判定) | 公正価値測定(ASC 820) |
| デリバティブ・組込デリバティブ(ASC 815・スコープ境界) | デリバティブとヘッジ(ASC 815) |
| 債券の信用損失(HTM/AFS の CECL・ASC 326) | 信用損失(CECL・ASC 326) |
| 金融商品の3基準横断比較 | 金融商品の会計処理 3基準比較 |
更新履歴
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2019-09-14 | 初稿公開(旧 WordPress 記事) |
| 2026-06-17 | 全面リライト。treatment 型・実務判断型に再構成。RDFV 判定フロー・定性減損評価手順・開示2本(50-3/50-4・50-2B)・設例A/B/Cを新規執筆。review_level: high に変更 |
出典
- ASC 321 Investments—Equity Securities(FASB)
- ASU 2016-01 Recognition and Measurement of Financial Assets and Financial Liabilities(FASB・2016-01-05)
- ASU 2019-04 Codification Improvements(FASB)
- ASU 2020-01 Investments(FASB)
- KPMG Handbook: Investments in Debt and Equity Securities(2025年8月版)
- EY FRD: Certain investments in debt and equity securities(2025年9月版)
本記事は公認会計士による最終監修前です。一次資料・基準書および専門家による解説をもとに編集部が作成しています。内容の正確性には努めていますが、会計処理の判断にあたっては必ず基準書原文をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
本サイトの内容は執筆者個人の見解であり、執筆者が所属または所属していた組織の公式見解ではありません。会計処理の判断にあたっては、必ず最新の基準書原文を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。