会計基準ナレッジ

US GAAP 有価証券の分類・測定と実務判断——HTM/AFS/Trading(ASC 320)・持分証券 FVTNI/原価例外(ASC 321)・ASU 2016-01

US GAAP の有価証券(ASC 320/321・ASU 2016-01)を実務で分類・測定するための判断フローを解説。HTM/AFS/Trading の判定基準・HTM の positive intent and ability・持分証券の readily determinable FV・原価例外の定性減損評価・旧 OTTI 廃止後の現行減損整理(ASC 326)・外貨建て AFS の損益ミスマッチと FVO 解消を図解と設例で整理する。

US GAAP 有価証券の分類・測定と実務判断——HTM/AFS/Trading(ASC 320)・持分証券 FVTNI/原価例外(ASC 321)・ASU 2016-01

§0 この記事を読むと何ができるか

本記事は、US GAAP の有価証券(債券・持分証券)を 実務で分類・測定・開示するための判断フロー に集中した派生記事です。3基準横断の金融資産分類の概念的背景(事業モデル・SPPI・FVOCI の思想)については、親記事の IFRS 第9号 金融資産Part-II(金融資産の測定および分類) が詳述しています。本記事はその先の「US GAAP の有価証券を実際に分類・測定・開示する際の実務手順」に絞っています。

この記事を読むと、次の5点ができるようになります。

  1. 有価証券(Debt Security / Equity Security)の定義確認と ASC 320 / ASC 321 の適用振り分けを判定フローで実行できる。デリバティブ(ASC 815)・持分法投資(ASC 323)等との境界も確認できる。
  2. 債券の HTM / AFS / Trading 分類判定フロー(STEP 0〜3)を手順として追い、HTM の positive intent and ability 要件・safe harbor・tainting リスクの「枠」を確認できる。
  3. 持分証券の FVTNI / 原価例外の分類判定フロー(ASC 321)と、ASU 2016-01 後の現行ルール(持分証券 AFS 廃止・上場株式は FVTNI 一本化)を整理できる。
  4. 旧 OTTI が廃止されており、現行は ASC 326(HTM=CECL・AFS=allowance 方式)であることを明確に整理できる。旧規定との混同を解消し、減損の詳細モデルは既存記事 ASC 326 信用損失 に進める。
  5. 外貨建て AFS の損益ミスマッチと FVO 選択による解消の仕組み(US GAAP 固有の実務論点)を数値設例で確認できる。日本基準の容認法・IFRS の FVOCI との為替差損益処理の差異を比較表で特定できる。
読者この記事での使い方
US GAAP 適用企業の経理担当者§2(債券分類フロー)→ §3(測定・外貨建て)→ §4(ASU 2016-01)→ §5(持分証券フロー)→ §6(減損現行整理)
会計士・監査人§2-3(HTM の intent & ability・証憑の枠)→ §5-4(原価例外の定性減損評価)→ §6(旧 OTTI 廃止・現行 ASC 326)→ §7(誤解矯正)→ §8(監査証跡の枠)
IFRS 比較が必要な担当者§3-4(外貨建て AFS の3基準比較表)→ 親記事(ifrs-9-asset-part-2)へ
受験生・学習者§1(体系)→ §2(債券フロー)→ §4(ASU 2016-01 前後比較)→ §5(持分証券フロー)→ §6(減損整理)→ §7(誤解矯正)

§1 US GAAP 有価証券の全体構造(最小限の復習)

1-1 有価証券の定義と ASC 320 / ASC 321 の適用範囲

有価証券(Security)のうち、債権者関係を示す負債性証券(Debt Security)には ASC 320 が、発行体の所有権を示す持分証券(Equity Security)には ASC 321 が適用される。

典型的な Debt Security には、国債・地方債・社債・転換社債・コマーシャルペーパー・証券化商品(CMO・REMIC 等)が含まれる。強制償還条件が付された優先株式は、持分の形式をとっても Debt Security として扱われる(ASC 321-10-20)。Equity Security には普通株式・優先株式・株式取得権(ワラント・オプション)等が含まれる。

他の基準が先行する場合、ASC 320 / ASC 321 の前に確認が必要となる。デリバティブ(ASC 815)・組込デリバティブの分離検討が先行し、持分法(ASC 323・原則として 20% 以上の議決権保有)が適用される場合は ASC 321 のスコープから外れる。優先株・転換社債の Debt / Equity の振り分けは個別条件による判断が必要であり、グレーゾーンに属する(§7 で補足)。3基準横断の概念比較は 親記事(ifrs-9-asset-part-2) を参照のこと。

1-2 ASU 2016-01 が変えた体系(要旨)

2016年1月公表の ASU 2016-01 により、US GAAP の有価証券の体系が大きく変わった。主な変更は持分証券の AFS 廃止・ASC 321 新設・ASC 325-20 廃止の3点で、現在の ASC にはすでに反映済みである。詳細は §4 で扱う。


§2 債券(ASC 320)の分類判定フロー

有価証券の分類は、単なる帳簿の振り分けではない。HTM・AFS・Trading のどの区分に属するかによって、貸借対照表の計上額(償却原価か公正価値か)・損益の計上時期・減損の適用モデルが根本的に変わる。US GAAP はこの違いを明確にするため、取得時の保有意図と能力を分類の要件として組み込んでいる。

2-1 3分類の概要(早見表1)

早見表1: 債券(ASC 320)の3分類比較表

分類分類基準B/S 計上額未実現損益の処理減損の根拠
HTM(満期保有)満期まで保有する積極的意思と能力(ASC 320-10-25-1(c))償却原価計上しないASC 326-20(CECL)
AFS(売却可能)残余分類(HTM でも Trading でもない)(ASC 320-10-25-1(b))公正価値OCI(AOCI・税効果考慮後)ASC 326-30(allowance 方式)
Trading(売買目的)主として短期売買目的(ASC 320-10-25-1(a))公正価値P&L(FVTNI)適用なし(FVTNI で随時反映)

2-2 分類判定フロー(STEP 0〜3)

2-3 HTM の「積極的意思と能力」要件の実務判定(設例①)

HTM 分類の実務上の最大の論点は、意思(intent)と能力(ability)の独立した確認にある。過去の保有実績だけでなく、将来にわたって満期まで保有できる財務的な能力があることを、期末ごとに裏付けなければならない。

ASC 320-10-25-3 によると、HTM の分類判断において、過去の売却・譲渡等の実績を検討する義務がある。過去に HTM 分類の債券を safe harbor 以外の理由で売却した実績があれば、その後の HTM 分類の信頼性が問われる(tainting リスク)。

早見表2: HTM 分類の「確認すべき証憑と判断の枠」チェックリスト

確認観点確認資料の例判断との接続
積極的意思(intent)の存在投資方針書・取締役会議事録・資産負債管理委員会の承認記録「満期まで保有する」という組織意思の文書化
能力(ability)の存在流動性計画・ALM レポート・財務状況の確認資料満期前売却を強いる財務的必要性がないことの確認
過去の HTM 売却実績過去期間の HTM 売却記録・分類変更記録ASC 320-10-25-3(過去実績の考慮義務)との整合
safe harbor に該当するか信用格付け悪化の記録・税法改正通知・規制資本要件変更の資料ASC 320-10-25-9(safe harbor 条件)への該当確認

設例①: HTM 判定の概念設例(3シナリオ)

対象: 5年満期の国内社債 A(固定金利 2.0%)。取得後の HTM 分類を3シナリオで判定する。

シナリオ X(HTM が支持される枠): 投資方針書に「満期まで保有するポートフォリオ」と明記され、ALM レポートで流動性計画の裏付けがある。過去5年間 HTM 分類の債券の売却実績ゼロ。→ HTM 分類が支持される。意思と能力の両方が文書化されており、過去実績も一貫している。

シナリオ Y(ability に疑問があるケース): 同じ債券だが、翌年度に大型設備投資資金が必要な計画があり、流動性計画上では債券の早期売却が検討されている。→ 満期まで保有する「能力」の裏付けに疑問が生じる。財務計画を精査し、設備投資資金の調達方法が他にあることを確認できなければ、AFS に分類することが安全である。

シナリオ Z(tainting リスクがあるケース): 同じ債券だが、過去3年で HTM 分類の債券を「追加投資資金調達のため」2回売却した実績がある。この売却が safe harbor(§2-4)に該当しないとすれば、過去実績がその後の HTM 分類の信頼性に影響する。→ HTM 分類を主張するには、なぜ過去の売却と今回の保有意思が整合するかを説明する必要がある。

この設例は判断の「枠」を提示するものです。最終的な分類判断は、個々の事実関係と専門家の判断によります。

2-4 HTM の safe harbor と tainting リスク

ASC 320-10-25-9 によると、以下のような「稀なイベント(safe harbor)」が発生した場合、HTM 分類の債券を売却または AFS へ移管しても、HTM ポートフォリオ全体の信頼性が損なわれないとされる。代表例として、信用品質の著しい悪化・税法改正・保険会社の規制資本要件の変更・合併等がある。

一方、safe harbor に該当しない理由での HTM 売却は「tainting リスク」を生む。tainting とは、HTM 分類全体の信頼性が損なわれ、以後の HTM 分類が疑問視される状態を指す。ASC 320 に定量的な閾値(何回売却したら発動するか)は明示されていない。「稀なイベント以外での売却はタインティングリスクを生む可能性がある」という概念的な枠として理解する。

2-5 分類変更(reclassification)の条件と方向性の概要

HTM から AFS への転換は、safe harbor イベントが生じた場合に限定される。転換時は、HTM 分類中に発生した未実現損益を AFS の AOCI として認識する。AFS から Trading への転換では、AFS 分類中の未実現損益を P&L に認識した上で Trading へ移管する形になる。


§3 債券(ASC 320)の測定・表示

3-1 HTM: 償却原価(Amortized Cost)による継続測定

HTM は満期まで保有することを前提とした分類であるため、公正価値の変動を帳簿価額に反映しない。代わりに実効金利法による利息収益を認識しながら、取得原価に対してプレミアム・ディスカウントを期間配分(償却)していく。

貸借対照表計上額: 取得原価 ± 期間配分済みプレミアム/ディスカウント(= 償却原価)

HTM の仕訳の方向性:

減損が発生した場合は ASC 326-20(CECL)に基づき、Allowance for Credit Losses を計上する。詳細は §6-2 および ASC 326 信用損失 を参照のこと。

3-2 AFS: 公正価値(FV)測定・未実現損益は OCI

AFS 債券は期末に公正価値で再測定し、帳簿価額との差額を OCI(その他包括利益)として AOCI(累計その他包括利益)に計上する。税効果を考慮する点に注意が必要である。売却時には、AOCI に累積された未実現損益をリサイクル(recycling)して P&L に振り替える。

貸借対照表計上額: 公正価値(未実現損益は AOCI に計上・純資産の部)

期末評価の仕訳の方向性(公正価値が上昇した場合):

売却時の仕訳の方向性:

AFS の信用損失については ASC 326-30 の allowance 方式が適用される(§6-3 参照)。

3-3 Trading: 公正価値(FV)測定・評価損益は P&L(FVTNI)

Trading 債券は期末に公正価値で再測定し、評価損益を直接 P&L に認識する(FVTNI: Fair Value Through Net Income)。AFS との違いは、未実現損益が OCI を経由せずに直接 P&L に計上される点にある。

貸借対照表計上額: 公正価値(未実現損益は P&L に直接反映)

期末評価の仕訳の方向性(公正価値が上昇した場合):

Trading 債券については別途の減損規定の適用はない。公正価値変動が直接 P&L に反映されているためである。

3-4 外貨建て AFS の特論(US GAAP 固有の論点)

外貨建て AFS 債券の測定は US GAAP 固有の実務論点を含む。ASC 320-10-35-36 によると、外貨建て AFS 債券の公正価値変動のうち、信用損失引当金に記録される金額を除く部分は OCI に認識する。この結果、為替換算差額も含めた公正価値変動の全体が OCI に計上されるため、為替差損益を分離して P&L に計上することができない。

この点が日本基準および IFRS との差異を生む。

外貨建て有価証券の為替差損益処理の3基準比較表

基準区分為替差損益の処理根拠
US GAAPAFS公正価値変動の全体(為替差分を含む)を OCI 計上。P&L への分離は原則不可(FVO 選択で解消可・§3-5 参照)ASC 320-10-35-36
日本基準その他有価証券(債券)原則法: 公正価値変動全体を OCI 計上。容認法: 為替換算差額の一部(時価変動分以外)を為替差損益として P&L 計上可外貨建取引等会計処理基準・注解10/移管指針第2号第15・16項
IFRSFVOCI 測定(負債性金融商品)為替換算差額(monetary element 相当)は純損益(P&L)に計上し、その他の公正価値変動は OCI 計上IFRS 9(詳細は IFRS 第9号 金融資産Part-II 参照)

日本基準の容認法では、外国通貨による時価の変動に係る換算差額を評価差額(OCI)とし、それ以外の換算差額(為替変動部分)を為替差損益として P&L に計上できる(外貨建取引等会計処理基準・注解10・移管指針第2号第16項)。これは損益計算書上の損益ミスマッチを緩和する実務上の対処として比較対象になる。US GAAP にはこれに直接対応する規定はなく、AFS のままでは為替差損益を P&L に分離できない。

なお、日本基準の容認法と US GAAP の FVO 選択は、会計上の規定の位置付けが異なる(容認法は分離計上の方法論・FVO は測定モデルの全面切替)。「FVO 選択=日本基準の容認法に相当」と断定することは避ける。

IFRS の FVOCI 債券の為替換算差額処理の詳細は親記事(IFRS 第9号 金融資産Part-II(金融資産の測定および分類))を参照のこと。

3-5 公正価値オプション(FVO)による損益ミスマッチ解消

外貨建て AFS 債券に対して公正価値オプション(FVO・ASC 825-10)を選択することで、当該債券を FVTNI 測定に切り替えることができる。為替予約等のヘッジ手段の損益(P&L 計上)と有価証券の評価損益(P&L 計上)が同じ損益計算書の行に計上されるため、損益ミスマッチが解消される。

設例②: 外貨建て AFS × FVO 選択の数値設例(説明用の数値例)

前提条件(説明用の仮設例):

ケースA: AFS(FVO 選択なし)

期末の有価証券公正価値(JPY換算):

全体の公正価値変動(帳簿価額との差額):

為替予約の損益(公正価値変動・簡略計算):

結果(損益ミスマッチあり):

ケースB: FVO 選択(AFS → FVTNI 切替)

FVO を選択すると、有価証券の評価損益が全額 P&L に計上される。

期末の有価証券公正価値変動:

為替予約損失:

結果(損益ミスマッチ解消):

FVO の詳細(適格要件・当初認識時の選択と取消不能の原則)は ASC 820 公正価値測定 を参照のこと。


§4 ASU 2016-01 が持分証券会計を変えた論点

ASU 2016-01(2016年1月5日公表)は、持分証券の会計処理を根本的に変更した。現行 ASC にはすでに反映済みであり、本節はその経緯として整理する。

4-1 改正前後の比較表(早見表4)

早見表4: ASU 2016-01 改正前後の比較表

持分証券の種別ASU 2016-01 前ASU 2016-01 後(現行)
上場株式(Trading 目的)FVTNI(変更なし)FVTNI(変更なし)
上場株式(AFS で保有)AFS・公正価値・未実現損益を OCI 計上AFS 廃止 → FVTNI 一本化
非上場株式(旧・原価法)ASC 325-20 の原価法(公正価値測定なし)ASC 325-20 廃止 → ASC 321 の原価例外(practical expedient)に移行
FVO 選択金融負債の自己信用変動P&L 計上(「負債のパラドックス」)OCI 計上(自己信用悪化で評価損が発生しても P&L への影響なし)

現行 ASC の下では、持分証券の AFS 分類は存在しない。保有する上場株式が AFS のまま残っていないか確認が必要である(§8 の確認観点6を参照)。

4-2 ASC 325-20(原価法投資)廃止の意味

改正前の ASC 325-20 では、readily determinable FV のない持分証券は「原価法」(取得原価をそのまま計上)で測定できた。ASU 2016-01 はこれを廃止し、ASC 321 の「原価例外(practical expedient)」に統合した。原価例外は、RDFV なしの持分証券について「原価 ± 観察可能価格変動 − 減損」という修正原価で測定するモデルである。旧・原価法より減損評価が強化された点が重要である(§5-4 参照)。

4-3 FVO 負債の自己信用 OCI(「負債のパラドックス」解消)

FVO を選択した金融負債について、自己の信用リスクの変動に起因する公正価値変動を OCI に計上する改正も ASU 2016-01 に含まれている。改正前は自己信用悪化による評価損を P&L に計上していたため、財務状況が悪化するほど利益が増えるという「負債のパラドックス」が生じていた。

4-4 繰延税金の統合評価(概要)

AFS 債券に関連する繰延税金資産の評価性引当金を、その他の繰延税金資産とまとめて評価できるよう統一された。

4-5 適用時期(経緯として)

公開企業(SEC ファイリング企業)は 2017年12月16日以後開始会計年度から、非公開企業は 2018年12月16日以後開始会計年度から適用。2026年時点では全企業が適用済みのため、本節の内容は「経緯」として扱う。


§5 持分証券(ASC 321)の分類判定フローと測定

ASU 2016-01 後の現行ルールでは、持分証券(Equity Security)の会計は ASC 321 に一元化されている。AFS の持分証券は廃止済みであり、この点を誤解したままにしないことが重要である。

5-1 持分証券の定義と適用から除かれるもの(早見表3の前提)

ASC 321-10-20 によると、持分証券とは発行体の所有権(普通株式・優先株式・その他資本株式)を示す証券、または固定価格で所有権を取得・処分する権利(ワラント・オプション)を指す。

適用から除かれる主なもの:

5-2 分類判定フロー(STEP 1〜3)と設例③

早見表3: 持分証券(ASC 321)の分類別処理比較表

分類RDFV の有無測定評価損益定性減損評価
FVTNI(RDFV あり)あり公正価値(毎期)P&L(FVTNI)不要(FVTNI で随時反映)
FVTNI(RDFV なし・選択)なし公正価値P&L不要(同上)
原価例外(RDFV なし・選択)なし原価 ± 観察可能価格変動 − 減損減損時のみ P&L毎報告期間に実施必須(ASC 321-10-35-3)

設例③: 持分証券3投資の分類設例(説明用の判断フロー展開)

ある企業が以下の3投資を保有している場合の分類を確認する(説明用の仮設例)。

投資X: 東京証券取引所プライム市場上場の製造業株式 → RDFV あり(東証プライムの売値・気配値が現在利用可能) → FVTNI 測定(RDFV ありのため直接 FVTNI へ)

投資Y: 国内未上場の製造業株式(帳簿価額 10,000,000円) → 売値・気配値なし・比較可能な外国市場なし・NAV 非該当 → RDFV なし → 原価例外を選択 → 当期中に投資先Y社が四半期損失を計上し、外部格付機関が格付け見通しを Negative に変更 → ASC 321-10-35-3 が列挙する指標に照らし「投資先の利益・事業見通しの重要な悪化」・「格付け悪化」に該当と判断 → 公正価値を測定: 8,000,000円 → 評価減 2,000,000円を P&L 認識(借)有価証券評価損 2,000,000 / (貸)投資有価証券(原価例外)2,000,000

投資Z: 国内 VC ファンドへの LP 出資 → ファンドが NAV を公表し、定期的に投資家への報告に使用している場合 → RDFV の条件(c)(ミューチュアルファンド等への投資で NAV が取引の基礎となっている)への該当を確認する → NAV が実際の取引の価格基礎として継続的に使われているかどうかが判断のポイント。NAV が参考情報の提供にとどまり取引基礎になっていない場合は RDFV なしとなる可能性がある → この投資は境界事例であり、最終判断は個別の事実関係と専門家の確認が必要

投資Zのように、条件(c)の適用は VC ファンド・LP 投資等で境界ケースが生じやすい。断定的な判断は避け、「NAV が取引の基礎となっているか」を個別に確認することが重要である。

5-3 FVTNI 測定(RDFV あり・または選択 FVTNI)

FVTNI 測定では、評価損益(未実現損益を含む)を毎期 P&L に認識する(ASC 321-10-35-1)。OCI は使用しない(これが ASU 2016-01 後の現行ルールの要点である)。別途の減損規定の適用はない。公正価値変動が随時 P&L に反映されるためである。

5-4 原価例外(practical expedient)の測定と減損評価

原価例外の測定式: 帳簿価額 = 原価 ± 観察可能価格変動 − 減損

観察可能価格変動とは、同一・類似の発行体の証券についての観察可能な価格変動(orderly transaction での取引価格)が確認された場合に、upward / downward adjustment として帳簿価額を修正するものである。

毎年度末に RDFV の有無を再評価する義務がある(ASC 321-10-35-2)。もし RDFV が生じた場合は FVTNI 測定に移行する。

定性減損評価(毎報告期間): ASC 321-10-35-3 が列挙する指標を考慮した定性評価を毎報告期間に実施する義務がある。考慮すべき指標には(以下に限定されない可能性があることに注意):

減損の兆候があると判断した場合は公正価値まで評価減し、P&L 認識する。減損の認識後に価値が回復した場合でも、戻入れは旧帳簿価額を上限に限定される。

5-5 開示(ASC 321-10-50-4)

ASC 321-10-50-4 は、持分証券に関する未実現損益の分解開示を求める。開示算式:

「持分証券について当期間に認識された純損益」 −「当期間に売却された持分証券の当期間の純損益」=「報告日現在で保有している持分証券の報告期間の未実現損益」

持分証券の開示の詳細・ASU 2016-01 の全論点の実務適用は 持分証券(ASC 321)の分類・測定実務 を参照のこと。


§6 減損の現行整理——旧 OTTI から ASC 326/CECL 後へ

6-1 旧 OTTI 2ステップは廃止済み(誤解矯正・最重要)

従来 ASC 320 で広く解説されていた OTTI(other-than-temporary impairment)2ステップ(ステップ1: 公正価値が帳簿価額を下回るかの定量評価・ステップ2: 一時的か否かの評価)は現行規定ではない。現在の実務では、HTM と AFS で異なる現行モデル(§6-2・§6-3)を適用する。

6-2 HTM 債券の現行減損: ASC 326-20(CECL 本体)

HTM 債券は ASC 326-20(CECL: Current Expected Credit Loss モデル)の対象である。前向き情報(forward-looking information)を取り込んだ予想信用損失に基づき、Allowance for Credit Losses を計上する。信用損失の測定・ステージ管理・前向き情報の取り込み方の詳細については ASC 326 信用損失 を参照のこと。

HTM 減損の仕訳方向:

6-3 AFS 債券の現行減損: ASC 326-30(CECL 本体ではない・allowance 方式)

ASC 326-30 によると、AFS 債券の減損は以下の方式で処理する:

旧 OTTI で行っていた「一時的か否か」という2段階の評価は不要である。現行は「信用損失か否か」による分類が中心となっている。詳細は ASC 326 信用損失 を参照のこと。

6-4 Trading 債券: 減損規定の適用なし

Trading 債券は FVTNI 測定であるため、別途の減損規定の適用はない。公正価値の下落が直接 P&L に反映されるためである。


§7 実務上の注意点・誤解の矯正

Q1: HTM に分類すれば期中に絶対売却できないか

売却はできるが、safe harbor に該当するイベント(信用品質の著しい悪化・税法改正・規制資本要件の変更等。ASC 320-10-25-9)が生じた場合に限り、HTM ポートフォリオ全体への tainting リスクなしで売却できる。safe harbor 以外の理由での売却は tainting リスクを生む。HTM を維持するつもりであれば、safe harbor 条件の確認が先決である。

Q2: 原価例外を選べばずっと原価で評価できるか

そうではない。毎年度末に RDFV の有無を再評価する義務がある(ASC 321-10-35-2)。もし RDFV が生じた場合は FVTNI 測定に移行しなければならない。また毎報告期間に定性減損評価を実施する義務があり(ASC 321-10-35-3)、兆候があれば公正価値まで評価減が必要になる。「原価評価で固定できる」という誤解は危険である。

Q3: AFS の持分証券を保有し続けてよいか(ASU 2016-01 後)

ASU 2016-01 後、持分証券の AFS 分類は廃止されている。保有する上場株式を AFS として継続計上している場合は、分類の修正が必要である。上場持分証券は FVTNI 一本化が現行ルールである。財務諸表の組み替えの要否を確認すること。

Q4: 外貨建て AFS の為替差損益を P&L に計上するには

US GAAP には日本基準の容認法のような直接的な分離計上規定はない。FVO を選択(ASC 825-10)して全額 FVTNI 化するのが US GAAP での主な対処法である。ただし FVO は取消不能(once elected, irrevocable)である点に注意が必要。詳細は ASC 820 公正価値測定 を参照のこと。

Q5: AFS 債券の減損に CECL(ASC 326-20)を適用してよいか

適用してはならない。AFS 債券は CECL(ASC 326-20)の対象外であり、ASC 326-30 の allowance 方式が適用される。CECL(326-20)は HTM 債券・貸出金等に適用するモデルであり、AFS への誤適用は重大な誤りとなる。§6-3 の整理を再確認すること。


§8 監査証跡として整備すべき文書の枠

本節は「監査人に説明するメモの観点・残すべき証跡の様式の枠」を提供する。個別の会計・監査判断は読者および監査法人が行う。

確認観点1: 有価証券の定義・スコープの確認

確認観点2: HTM 分類の根拠文書

確認観点3: AFS / Trading 分類の根拠

確認観点4: 原価例外の適用適格・毎期再評価記録

確認観点5: 定性減損評価の実施記録(原価例外)

確認観点6: ASU 2016-01 後の分類の正確性

確認観点7: 旧 OTTI ではなく現行 ASC 326 が適用されているかの確認

証跡の様式(枠):


§9 隣接論点・関連記事へのナビ

本記事は金融商品のフロー(#2「金融資産の分類・測定」ノード)の US GAAP 派生記事です。

前(親記事): 3基準横断の分類・測定・SPPI・FVOCI の概念 → IFRS 第9号 金融資産Part-II(金融資産の測定および分類)

持分証券の詳細・ASU 2016-01 全論点:持分証券(ASC 321)の分類・測定実務

債券の減損詳細(CECL・ステージ・ロールフォワード):ASC 326 信用損失(CECL)

公正価値測定の技法・Level 評価:ASC 820 公正価値測定

デリバティブ・組込デリバティブ(転換社債等の判定):ASC 815 デリバティブとヘッジ

3基準横断の比較ハブ:金融商品の3基準比較


更新履歴

日付内容
2019-09-14初稿公開(旧 WordPress 記事)
2026-06-16全面リライト。ASU 2016-01 後の現行体系(ASC 321 新設・持分証券 AFS 廃止)・旧 OTTI 廃止後の現行減損整理(ASC 326-20/326-30)・判定フロー2本・早見表4本・設例3本を新設。旧 OTTI 規定(ASC 320-10-35-21〜35)の記述を全廃し現行規定に置換。

出典

本記事は公認会計士による最終監修前です。一次資料・基準書および専門家による解説をもとに編集部が作成しています。内容の正確性には努めていますが、会計処理の判断にあたっては必ず基準書原文をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。

本サイトの内容は執筆者個人の見解であり、執筆者が所属または所属していた組織の公式見解ではありません。会計処理の判断にあたっては、必ず最新の基準書原文を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。