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借手の当初測定:使用権資産とリース負債をいくらで計上するか

IFRS 16 と企業会計基準第34号における借手の当初測定を解説する。リース負債はリース料の現在価値、使用権資産はリース負債+前払+当初直接費用+原状回復見積の積み上げ構造を設例・仕訳とともに深掘りする派生記事。

借手の当初測定:使用権資産とリース負債をいくらで計上するか

リースと識別され、リース期間が確定した後に待ち受けるのが「いくらで計上するか」という当初測定の問いです。借手は開始日に2つの数値を決めなければなりません。リース負債と使用権資産です。この2つは連動していますが、計算の出発点が異なります。

リース負債の出発点は、まだ支払っていないリース料の現在価値です。将来の支払義務を今の価値に引き直す作業であり、どのキャッシュフローを含め、どの割引率を使うかによって金額が変わります。使用権資産の出発点はリース負債ですが、それだけではありません。 開始日の時点で既に支払った前払リース料、リースを獲得するために直接かかったコスト(当初直接費用)、そして資産を返す際に見込まれる原状回復・除去コストも積み上げます。

この「積み上げ構造」は単なる計算上の取り決めではありません。経済実態の観点から見れば、借手がリース開始日に手にするのは使用権という資産であり、その資産のコストはリース負債だけで計られるべきではないという判断が背後にあります。前払リース料はすでに支払った調達コストであり、当初直接費用は使用権を獲得するために負担した費用です。そして原状回復義務は、使用権を享受するための条件として当初から存在している将来の支出です。これらをまとめて使用権資産のコストに反映させることで、使用権の「真の取得原価」が計上されるという考え方が、IFRS 16 と企業会計基準第34号に共通する設計思想です。

本記事は、ピラー記事「リース会計の基礎」の当初測定論点を深掘りする派生記事です。借手の視点に絞り、(1)リース負債の当初測定、(2)割引率の選択、(3)使用権資産の積み上げ計算、(4)当初直接費用と原状回復コストの経済実態との接続、(5)IFRS 16 と企業会計基準第34号の整合点・差異、を設例と仕訳を交えて解説します。


まず結論

借手は、リース開始日に(1)リース負債=支払われていないリース料の現在価値、(2)使用権資産=リース負債+開始日前払リース料-受取済みリース・インセンティブ+当初直接費用+原状回復見積の現在価値、という積み上げ構造で当初測定を行います(IFRS 16、企業会計基準第34号)。

2つの計算を整理します。

リース負債の当初測定:

含める要素内容
固定リース料変動性なしに確定した支払額(実質的固定リース料を含む)
指数・レートに応じる変動リース料開始日時点の指数・レートを使って測定した当初測定値
残価保証の支払見込額借手が貸手または第三者に支払うと見込まれる額
購入オプションの行使価額行使が合理的に確実な場合のみ
解約ペナルティリース期間に解約オプションの不行使が反映されていない場合のみ

割引率は、リースの計算利子率(算定可能な場合)または借手の追加借入利子率(算定できない場合)を使います(IFRS 16)。

使用権資産の当初測定:

使用権資産 = リース負債(開始日時点)
           + 開始日以前に支払ったリース料(前払リース料)
           - 受け取ったリース・インセンティブ
           + 当初直接費用
           + 原状回復・除去コストの見積現在価値

経済実態との接続:リース負債は「まだ払っていない義務の現在価値」、前払リース料は「既に支払った使用権の対価」、当初直接費用は「使用権の獲得コスト」、原状回復見積は「使用権の享受に付随する将来の義務」です。これらをすべて合算したものが、借手が手にする使用権資産の当初帳簿価額です。


リース負債の当初測定:含めるリース料の構成

固定リース料

固定リース料は、リース期間中に確定している支払額です。契約上の金額が市場変動に関わらず固定されていれば、そのまま含めます(IFRS 16)。

ここで注意が必要なのが「実質的固定リース料」です。形式上は変動する条件が付いていても、経済的には支払いを回避できない設計になっている場合、それは固定リース料として扱います。例えば「月産1,000個を生産すれば月額100万円、生産しなければゼロ」というような条件で、実態として生産しない可能性がほとんどないケースなどが該当します。基準は形式ではなく経済実態を見るという原則がここにも貫かれています。

指数・レートに応じる変動リース料

消費者物価指数(CPI)や市場賃料指数に連動する変動リース料は、当初測定の対象になります。ただし、開始日時点の指数・レートを使って測定した金額が計上されます(IFRS 16)。将来の指数変動は、その変動が確定した時点で再測定します。

一方、使用量や業績に連動する変動リース料(例:売上高の3%を賃料とする契約)は、当初のリース負債に含めません。これらは将来の実績次第で金額が確定するため、現在価値に引き直せないからです。この種の変動リース料は、発生した期間の費用として認識します。

残価保証の支払見込額

借手がリース期間終了時に資産の残存価値を保証している場合、保証額のうち借手が実際に支払うと見込む金額をリース負債に含めます(IFRS 16)。保証の額面全体ではなく、支払見込額です。資産の実際の残存価値が保証額を下回ると見込まれる場合に、その差額が支払い見込みになります。

この扱いは、残価保証が経済的には追加のリース料と同質だという考え方に基づいています。借手がリース終了時に差額を補填するなら、それは実質的にリース期間中の使用コストの一部です。

購入オプションの行使価額

リースに購入オプションが付いていて、その行使が「合理的に確実」な場合は、行使価額をリース負債に含めます(IFRS 16)。「合理的に確実」の判断基準はリース期間の延長オプションと共通であり、リース期間の決定の派生記事で詳しく扱っています。

解約ペナルティ

解約オプションが付いているリースで、リース期間の決定において「解約する」という前提を取り込んでいる場合(つまり、解約時点をリース期間の終点にしている場合)は、解約時に支払うペナルティをリース負債に含めます(IFRS 16)。逆に、解約しないことを前提にリース期間を決めている場合は、ペナルティはリース負債に含めません。

リース期間の決定と、リース負債に含める支払いの構成は連動しています。どのシナリオ(延長する・解約しない・解約する)でリース期間を確定させたかによって、含まれるキャッシュフローが変わります。


割引率の選択:リース計算利子率か追加借入利子率か

割引率の2段階選択

リース負債の現在価値計算に使う割引率は、IFRS 16 において次の優先順位で決定します(IFRS 16)。

  1. リースの計算利子率(interest rate implicit in the lease):算定可能な場合はこれを使う
  2. 借手の追加借入利子率(incremental borrowing rate, IBR):計算利子率が算定できない場合はこれを使う

リースの計算利子率

計算利子率とは、貸手の観点から計算した内部収益率です。具体的には、「リース料の現在価値+残価保証の現在価値+無保証残価の現在価値 = リース開始日の資産の公正価値+貸手の当初直接費用の合計」となる割引率です(IFRS 16)。

この利子率は貸手の視点から導かれるため、借手はそれを算定するために「貸手が資産の残価をどう見込んでいるか」を知る必要があります。無保証残価は借手には通常開示されないため、借手が計算利子率を算定できないケースが多くなります。

借手の追加借入利子率

計算利子率が算定できない場合は、借手の追加借入利子率を使います。追加借入利子率とは、借手がリース開始日に、同等の担保・期間・経済環境のもとでリース資産と同様の金額を借り入れた場合に支払うであろう利子率です(IFRS 16)。

実務上は計算利子率が取得できないケースが多く、追加借入利子率が使われることが一般的です。追加借入利子率の推定には、企業の信用リスク・担保条件・リース期間・借入通貨などを考慮します。

割引率の経済実態との接続

なぜ利子率を使って「現在価値」に割り引くのか。その前に、お金の時間価値という考え方を押さえましょう。同じ100万円でも、「今もらう100万円」と「5年後にもらう100万円」では、今もらう方が価値が高い——今手にすれば預金や運用で増やせるからです。裏を返せば、将来支払うお金の”今の重み”は、支払いが先になるほど軽くなります。この”今の重み”を金額にしたものが現在価値で、将来の支払額を利子率で割り引いて求めます。

リース負債もこれと同じです。借手は今日から将来にかけてリース料を支払う義務を負っており、その義務の”今の価値”は、将来の支払額を現在価値に割り引いた金額になります。これは銀行融資を受けたときの負債の測定と同じ原理で、リースを実質的に資金調達の一形態とみなす使用権モデルの一貫した適用です。具体的な割引計算は「設例」ケース1で確認できます。


使用権資産の当初測定:積み上げ計算の各要素

リース負債が確定したら、次は使用権資産の当初測定です。使用権資産は、リース負債をベースにした積み上げ計算で求めます。

リース負債の当初測定額

積み上げの出発点はリース負債です。既に払われていないリース料の現在価値がそのまま使用権資産の主要部分を構成します。これは、「借手が使用権と引き換えに将来支払う義務の現在価値」が、使用権資産の最も重要なコスト構成要素であることを意味します。

開始日以前に支払ったリース料(前払リース料)

リース開始日の直前または当日に支払ったリース料があれば、その金額をリース負債に加算します(IFRS 16)。敷金・礼金の一部がリース料の前払いに相当する場合も同様です。

この加算が必要なのは、前払リース料がリース負債の計算に含まれていないからです。リース負債は「まだ支払っていない」義務の現在価値です。既に支払った分は負債に含まれていませんが、それは使用権資産の取得に充てた支出です。使用権資産の帳簿価額に加算しなければ、使用権の真の取得原価が過小表示されます。

受け取ったリース・インセンティブ(マイナス)

貸手から受け取ったインセンティブ(フリーレント、入居補助金など)があれば、その金額を使用権資産から控除します(IFRS 16)。

インセンティブは使用権の取得コストを実質的に下げるものです。例えば、入居から3か月間リース料が無料(フリーレント)なら、それは貸手が実質的に資産の使用コストを一部肩代わりしていることを意味します。その分だけ借手の実質的な取得原価は下がっているため、使用権資産から控除します。

当初直接費用

当初直接費用とは、リースを獲得するために発生した増分コストです。リース契約を締結しなければ発生しなかったコストが該当します(IFRS 16)。仲介手数料、弁護士費用(リース契約のネゴシエーションに直接かかったもの)などが典型例です。

一方、リース契約の検討・意思決定にかかった社内コスト(稟議書作成の人件費など)は、リースを獲得するために直接かかった増分コストとは言いにくいため、当初直接費用には含めません。

当初直接費用の経済実態との接続:当初直接費用は、使用権という無形の資産を手に入れるために支払ったコストです。建物や機械を購入する際に登録費用や仲介手数料を取得原価に含めるのと同じ論理で、使用権資産の帳簿価額に含めます。費用処理すると、資産の取得初年度に利益が不当に押し下げられ、以後の期間に減価償却が少なく計上されるという期間配分の歪みが生じます。使用権資産への資産化は、コスト発生のタイミングと便益享受のタイミングを対応させる費用収益対応の原則に従った処理です。当初直接費用を含む使用権資産の積み上げは「設例」ケース1で示します。

原状回復・除去コストの見積現在価値

借手がリース終了後に原状回復(内装の撤去、設備の除去など)を行う義務を負っている場合、その見積コストの現在価値を使用権資産に加算します(IFRS 16)。これは、日本基準で言う「資産除去債務」に相当する処理と並行して行われます。

この処理は二重仕訳になります:

  1. 原状回復義務の見積現在価値を「原状回復引当金(またはリース解体引当金)」として負債に計上
  2. 同額を使用権資産に加算

原状回復コストの経済実態との接続:借手が使用権を享受できるのは、リース終了後に資産を元の状態に戻すという条件を受け入れているからです。この義務はリース期間の初日から存在しており、使用権の「真のコスト」の一部です。将来の支出であっても、その義務は今日から生じており、使用権資産の取得に不可分に伴うコストとして当初から資産化することが、経済実態の正確な反映につながります。


設例

以下は説明用の数値例です(金額の単位は円)。

ケース1:固定リース料中心の標準的なオフィス賃貸

前提条件

第1ステップ:リース負債の算定(リース料の現在価値)

5年間・年率3%・年末払いで6,000,000円の現在価値を1年ずつ計算します。

年次    リース料      割引係数(÷1.03^n)   現在価値
1年目   6,000,000   1.030000           5,825,243
2年目   6,000,000   1.060900           5,655,575
3年目   6,000,000   1.092727           5,490,850
4年目   6,000,000   1.125509           5,330,922
5年目   6,000,000   1.159274           5,175,653

合計(リース負債)                        27,478,243

(検算)

(参考)上記は、各年のリース料を年率3%で割り引いた現在価値を1年ずつ合計した額です。

第2ステップ:原状回復見積の現在価値

5年後に2,000,000円を支払う義務の現在価値(年率3%・5年後):

2,000,000 ÷ 1.159274 = 1,725,218円

第3ステップ:使用権資産の積み上げ計算

リース負債(当初測定額)          27,478,243
+ 前払リース料(開始日前払い)       300,000
- 受取インセンティブ                     0
+ 当初直接費用(仲介手数料)         500,000
+ 原状回復見積の現在価値           1,725,218
─────────────────────────────
使用権資産(当初測定額)          30,003,461
リース負債 リース料の現在価値
27,478,243
+ 前払リース料
300,000
+ 当初直接費用 仲介手数料
500,000
+ 原状回復見積の現在価値
1,725,218
使用権資産(当初測定額)
30,003,461
図:使用権資産は、リース負債を土台に前払リース料・当初直接費用・原状回復見積(現在価値)を上乗せして測定する(受取インセンティブがあれば控除)

第4ステップ:開始日の仕訳

開始日(X1年1月1日)に計上される主要な仕訳は以下のとおりです。

(リース負債と使用権資産の認識)
(借) 使用権資産    27,478,243  /  (貸) リース負債    27,478,243

(前払リース料の振替)
(借) 使用権資産       300,000  /  (貸) 前払金         300,000
         ※開始日前に支払済みの前払金(既計上)を使用権資産へ振替

(当初直接費用の資産計上)
(借) 使用権資産       500,000  /  (貸) 現金預金       500,000

(原状回復引当金の計上と使用権資産への加算)
(借) 使用権資産     1,725,218  /  (貸) 原状回復引当金  1,725,218

(貸借確認)使用権資産の取引合計:27,478,243 + 300,000 + 500,000 + 1,725,218 = 30,003,461円。使用権資産の当初帳簿価額:30,003,461円。

開始日後の仕訳(X1年12月31日:1年目期末)

(リース料の支払)
(借) リース負債    5,175,653  /  (貸) 現金預金       6,000,000
(借) 支払利息       824,347
       ※利息:27,478,243 × 3% = 824,347(1円は丸め誤差)
       ※元本返済:6,000,000 − 824,347 = 5,175,653

(使用権資産の減価償却:リース期間5年の定額法)
(借) 減価償却費   6,000,692  /  (貸) 使用権資産累計額  6,000,692
       ※ 30,003,461 ÷ 5 = 6,000,692

ケース2:指数連動変動リース料がある場合の当初測定

前提条件

当初測定における変動リース料の扱い

指数・レートに応じる変動リース料は、開始日時点の指数・レートを使って測定した額でリース負債に算入します(IFRS 16)。将来のCPIを予測するのではなく、開始日時点のCPIで固定して測定する点が重要です。本設例では、開始日時点のCPIに基づく4〜5年目の月額が520,000円(年6,240,000円)に相当するため、この金額でリース負債を計算します。

年次    リース料      割引係数(÷1.03^n)   現在価値
1年目   6,000,000   1.030000           5,825,243
2年目   6,000,000   1.060900           5,655,575
3年目   6,000,000   1.092727           5,490,850
4年目   6,240,000   1.125509           5,544,159
5年目   6,240,000   1.159274           5,382,679

合計(リース負債)                        27,898,506

(検算)

指数連動部分があるため、ケース1より 27,898,506 − 27,478,243 = 420,263円 リース負債が大きくなります。

使用権資産(ケース1と同じ加算要素を加えた場合)

リース負債          27,898,506
+ 前払リース料        300,000
+ 当初直接費用        500,000
+ 原状回復見積PV    1,725,218
─────────────────────────
使用権資産          30,423,724

指数連動変動リース料は開始日の指数・レートを起点として当初測定を行い、その後CPI等が変動して再測定が必要になった時点(例:改定日)で、改定後の指数・レートに基づいてリース負債を再測定し、その差額を使用権資産に加減算します。


ケース3:変動リース料(使用量連動)を含む場合の当初測定

前提条件

当初測定における使用量連動変動リース料の扱い

使用量連動の変動リース料は、将来の実績が確定するまで金額が定まりません。このため、リース負債の当初測定に含めません(IFRS 16)。含めるのは、確実に支払義務が生じる最低月額保証100,000円(年1,200,000円)のみです。

年次    リース料(確定分)  割引係数   現在価値
1年目   1,200,000     1.030000    1,165,049
2年目   1,200,000     1.060900    1,131,115
3年目   1,200,000     1.092727    1,098,170
4年目   1,200,000     1.125509    1,066,184
5年目   1,200,000     1.159274    1,035,131

合計(リース負債)                 5,495,649

(検算)1,165,049 + 1,131,115 + 1,098,170 + 1,066,184 + 1,035,131 = 5,495,649円

使用量連動変動リース料の費用処理

使用量連動部分(最低保証を超える部分)は、実際に発生した期間の費用として認識します。例えば、X1年1月に使用量連動部分として150,000円が確定した場合:

(最低保証部分:毎月末の通常処理)
(借) リース負債    86,261  /  (貸) 現金預金    100,000
(借) 支払利息     13,739
       ※利息:5,495,649 × 3% ÷ 12 = 13,739(概算)
       ※元本返済:100,000 − 13,739 = 86,261
       ※実際は有効利子率法で月次按分

(変動リース料の費用認識)
(借) 変動リース料費用  150,000  /  (貸) 現金預金  150,000

3ケースの比較まとめ

比較ポイントケース1(固定)ケース2(指数連動)ケース3(使用量連動)
リース負債27,478,243円27,898,506円5,495,649円
使用権資産30,003,461円30,423,724円5,495,649円
変動部分の扱い開始日の指数でリース負債に算入リース負債に含めず、発生時費用処理
再測定のタイミング指数改定時なし(使用量確定時に費用認識)

(注)ケース3は前払・当初直接費用・原状回復義務がない前提のため、使用権資産=リース負債となります。


実務上の注意点

実務上の主な留意点は次のとおりです。

当初直接費用の範囲の絞り込みが重要。 当初直接費用は「リースを獲得するための増分コスト」に限定されます。リース候補物件の検討にかかった費用や、契約締結以前の調査費用は含みません。仲介手数料や弁護士費用でも、リース契約の成立に直接関与した部分のみが対象です。費用項目ごとに「このコストはリース契約を獲得しなければ発生しなかったか」を確認する必要があります。

前払リース料と敷金・保証金の区別。 日本の不動産賃貸では敷金・保証金の授受が一般的ですが、これらのすべてがリース料の前払いとして使用権資産に算入されるわけではありません。返還される部分は金融資産(差入保証金など)として処理し、返還されない部分や一定期間後に償却される部分はリース料の前払いとして使用権資産に含めます。契約条件を確認して両者を適切に区別することが必要です。

原状回復義務の認識要件の確認。 原状回復・除去コストを使用権資産に含めるのは、借手がその義務を負っている場合です。契約上の原状回復条項を確認し、義務の有無と範囲を特定することが先決です。義務が確認できれば、その見積金額の現在価値を計上します。原状回復見積の設定には合理的な根拠が必要であり、過去の類似事例や専門家の見積りを根拠にすることが考えられます。

追加借入利子率の算定根拠の記録。 計算利子率が使えない場合に使う追加借入利子率は、借手の判断が入る見積りです。どのような前提(信用スプレッド・リスクフリーレート・担保設定等)を使ったかを文書化しておくことが重要です。同一グループ内でも、子会社ごとに信用力が異なればそれぞれ異なる利子率になる場合があります。

使用権資産と原状回復引当金の時間価値調整。 原状回復見積の現在価値は開始日に計上されますが、リース期間の経過とともに利息部分(時間価値分)を毎期費用として認識します。使用権資産の減価償却とは別に、引当金の時間価値調整(利息費用)が損益に乗ってくる点を見落とさないことが必要です。

簡便法(短期リースおよび少額資産リース)の適用可否の確認。 リース期間が12か月以内の短期リースや、基礎資産が新品の状態で少額(IFRS 16 の結論の背景〔BC〕では、5,000米ドル相当以下が議論の際の一つの目安とされています)であるリースには、使用権資産・リース負債を計上せず費用処理する簡便法があります(IFRS 16)。当初測定の複雑な計算を行う前に、簡便法の適用要件を満たすかどうかの確認が先になります。


IFRS 16 と企業会計基準第34号の比較

企業会計基準第34号は、借手の当初測定について IFRS 16 と実質的に共通する考え方を採用しています。使用権資産の積み上げ構造・リース負債の構成要素・割引率の選択ロジックは、IFRS 16 との整合が図られています。

論点IFRS 16企業会計基準第34号
リース負債の測定基礎支払われていないリース料の現在価値(IFRS 16)同じ枠組みを採用
含めるリース料の構成固定・指数連動・残価保証・購入OP行使価額・解約ペナルティ(条件付き)同様に規定
割引率の優先順位計算利子率 → 追加借入利子率(IFRS 16)同じ優先順位。適用指針第33号が詳細を整理
使用権資産の積み上げリース負債+前払-インセンティブ+当初直接費用+原状回復PV(IFRS 16)同様に規定
当初直接費用の範囲増分コストに限定(IFRS 16)同様
原状回復・除去コスト見積現在価値を使用権資産に加算・対応引当金を計上(IFRS 16)資産除去債務として認識し、使用権資産に含める(企業会計基準第18号との整合)
短期リース・少額資産簡便法で費用処理(IFRS 16)同様の簡便法を採用

主な差異として注意が必要な点があります。

原状回復・除去コストの規定体系の違い。 IFRS 16 ではリース基準内で直接規定されているのに対し、日本基準では企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」と企業会計基準第34号が連携する形で処理します。計算の結果は実質的に同一ですが、参照する基準書が2本になる点が日本基準の特徴です。

追加借入利子率の推定に係るガイダンス量の差異。 IFRS 16 には追加借入利子率に関するより詳細なアプリケーションガイダンスが蓄積されています。企業会計基準第34号はその基本的な考え方を踏襲していますが、細部の実務処理においては IFRS 16 の解釈指針を参考にすることが有効です。


よくある誤解

誤解1:「使用権資産 = リース負債」と思っている

使用権資産とリース負債は開始日時点で金額が異なるのが通常です。使用権資産は「リース負債+前払リース料+当初直接費用+原状回復見積」の積み上げであり、前払リース料・当初直接費用・原状回復見積がある場合は使用権資産の方が大きくなります。この差異を認識しないと、仕訳の貸借が一致しなくなります。

誤解2:「指数連動変動リース料は変動するから含まない」

変動リース料のうち、使用量・売上高・業績などに連動するものはリース負債に含めませんが、消費者物価指数や市場賃料指数などの指数・レートに応じるものは開始日時点の指数を使って当初測定に含めます(IFRS 16)。「変動」という言葉に引きずられて両方を除外するのは誤りです。指数連動と使用量連動では扱いが異なります。

誤解3:「当初直接費用はすべて資産化できる」

当初直接費用は「増分コスト」に限られます。リース候補物件の調査費用、社内の意思決定にかかった人件費、複数案件の検討コストなどは増分コストではないため、資産化できません。費用計上します。このフィルターを通さず全費用を使用権資産に算入すると、使用権資産が過大計上されます。

誤解4:「原状回復見積が不確かだから計上しなくてよい」

原状回復義務がある場合、見積りが不確かであっても合理的な見積りが可能であれば計上します(IFRS 16、企業会計基準第34号)。計上が免除されるのは義務が存在しない場合か、見積り自体が不可能な場合です。「正確な金額が分からない」という理由だけで計上を省略することはできません。合理的な範囲の見積りを根拠を持って計上します。

誤解5:「計算利子率が分からないから何でもよい利子率を使える」

借手の追加借入利子率は「同等の条件で借りた場合の利子率」という具体的な定義があります(IFRS 16)。自社の平均借入コストをそのまま使ったり、リース期間・担保条件・通貨を無視した利子率を使うことは適切ではありません。追加借入利子率の算定は合理的な根拠と文書化を要する見積りです。

誤解6:「短期リースの判定は契約期間だけを見ればよい」

短期リース(12か月以内)の判定は、延長オプションも考慮した上でのリース期間が12か月以内かどうかで判断します(IFRS 16)。延長オプションを行使することが合理的に確実であれば、その延長期間を含めたリース期間が12か月を超える場合は短期リースの簡便法を適用できません。


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