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レポ取引・現先取引の会計処理——認識中止の判定から仕訳まで、日本基準・IFRS・US GAAPを横断比較

国債を担保に資金を調達するレポ取引・現先取引。売買形式でも貸借形式でも、買戻しが約束されている以上、3基準いずれも「担保付融資(secured borrowing)」として継続認識します。判定フロー・仕訳・開示を3基準横断で解説します。

レポ取引・現先取引の会計処理——認識中止の判定から仕訳まで、日本基準・IFRS・US GAAPを横断比較

「国債を担保に資金を借りる」という取引を想像してみてください。1か月後に同じ国債を決まった価格で買い戻す約束をして、今日その国債を取引相手に渡し、現金を受け取ります。形だけ見れば「国債を売った」ように見えます。しかし買戻しが確定している以上、経済の実態は「国債を担保にした短期借入」にほかなりません。

この取引がレポ取引(現金担保付債券貸借取引)や現先取引(条件付売買取引)と呼ばれるものです。日本では法的形式が「貸借」のものを現担レポ、「売買」のものを現先取引と区別していますが(日本のレポ取引・現先取引の歴史を参照)、会計上はどちらも同じ問題を突きつけます。

「売買の形式をとっていても、買戻し約束があれば債券を認識中止(オフバランス)してよいのか」——この問いに対し、日本基準・IFRS・US GAAPの3基準はいずれも「認識中止しない(担保付融資として継続認識する)」という結論で一致しています。

本記事では、なぜ3基準が同じ結論に至るのか、その判定ロジックの違いと仕訳・開示の実務を横断比較します。


まず結論

レポ取引・現先取引は、3基準のいずれにおいても「担保付融資(secured borrowing)」として継続認識します。債券はオフバランスしません。

具体的には次のとおりです。

3基準の判定ロジックは異なります。日本基準は「支配の移転」と財務構成要素アプローチを用い、IFRSは「リスクと経済価値」→「支配」の2段階判定を採り、US GAAPは「有効な支配(effective control)」の3要件を定めています。ただしレポ取引に関する結論は3基準で同方向に収束しており、「売買形式でも担保付融資として処理する」という点で共通します。

読者別の見方

読者押さえるポイント
経理担当者「現金は認識・債券は非認識」の原則と、自由処分権の有無によって仕訳がどう変わるかを確認してください。設例ケース2-1〜2-4が直接使える内容です
受験生・学習者3基準それぞれの「認識中止しない根拠条項」(日本基準:第9項(3)、IFRS:3.2.6(b)、US GAAP:ASC 860-10-40-24)の判定ロジックの違いを整理することが受験対策の核心です
財務諸表の利用者注記を見てください。担保に差し入れた有価証券の種類・帳簿価額・時価が開示されており、企業の短期資金調達の構造が読み取れます

この論点の歴史的経緯

レポ取引が「売買形式でも担保付融資として処理する」という会計上の扱いが定着した背景には、1990年代以降のオフバランス取引への規制強化があります。

日本では、1999年に「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)が制定され、金融資産の認識中止の要件として「支配の移転」概念と財務構成要素アプローチが採用されました。財務構成要素アプローチとは、金融資産を将来キャッシュフロー・回収サービス権・信用リスクなどの「構成要素」に分解し、移転した構成要素のみを認識中止するという考え方です(第57項・第58項)。現先取引やレポ取引では、買戻しが約束されている以上、価格変動リスク等の経済的構成要素は移転せず、貸手に残存すると整理されます。

国際的にも、IASBはIFRS 9(2014年制定)において、IAS 39(旧基準)の認識中止基準を引き継ぎつつ、リスクと経済価値アプローチと支配アプローチの2段階判定を明確化しました。米国でも、FASB ASU 2014-11により「満期保有型レポ(repurchase-to-maturity)」についても一律にsecured borrowingとして処理するよう統一されました(ASC 860-10-40-24A)。

歴史の詳細は日本のレポ取引・現先取引の歴史をご参照ください。


対象となる取引と適用範囲

対象取引

本記事が扱う取引は以下の2形態です。

日本では「現担レポ=貸借形式、現先=売買形式」と法的形式が異なりますが、どちらも会計上は金融取引(担保付借入)として処理します(移管指針第9号 第129項)。

本記事の対象外

本記事では以下を扱いません。


会計処理の考え方——3基準横断

経済実態と会計処理の接続

まず経済実態を確認します。現先取引・現担レポとも、取引の実質は「一定期間、債券を担保として差し入れて現金を借り受け、満期に固定価格で買い戻す」という担保付短期借入です。

買戻し価格が固定されている以上、貸手は取引期間中の債券の価格変動リスクをすべて引き続き負担しています(価格が上がっても下がっても、固定価格で買い戻す義務があるからです)。この経済実態——リスクが移転していない——を会計が忠実に反映するために、3基準いずれも「認識中止しない」という結論を選択しています。

日本基準——支配の移転と財務構成要素アプローチ

日本基準では、金融資産の消滅の認識(認識中止)の要件を企業会計基準第10号 第8項が定めています。「金融資産の契約上の権利を行使したとき、権利を喪失したとき又は権利に対する支配が他に移転したとき」に消滅を認識するとされています(第8項)。

支配の移転の3要件を第9項が規定しています。

  1. 譲渡された金融資産に対する権利が法的に保全されていること
  2. 譲受人が金融資産から生じる将来キャッシュフローを直接または間接に享受できること
  3. 譲渡人が買い戻す権利または義務を有していないこと

現先取引・現担レポは、(3)の要件を明らかに満たしません。買戻しが「あらかじめ合意されている」以上、支配は移転していないと整理されるからです(第9項(3)の趣旨)。

さらに、財務構成要素アプローチ(第57項・第58項)の観点からも、価格変動リスク・インタレストリスク等の経済的構成要素が移転していないため、貸手は認識中止できません。

実務上の処理原則は移管指針第9号 第129項に定められており、「現金は認識・債券は非認識」というシンプルな原則に集約されます。

具体的な数値例は後掲の「設例」ケース2-1〜2-4で扱います。

IFRS——リスクと経済価値→支配の2段階判定

IFRS 9は、金融資産の認識中止について2段階の判定を定めています(Section 3.2)。

第1段階:リスクと経済価値の移転の程度(IFRS 9.3.2.6)

レポ取引の場合、固定価格での買戻し義務があるため、価格変動リスクをすべて保有しています。したがって3.2.6(b)に該当し、第1段階で「継続認識」と判定されます。

第2段階:支配の保持(IFRS 9.3.2.9)——レポでは第1段階で結論が出るため通常適用不要

第2段階は、リスクと経済価値が第1段階の「どちらでもない中間状態」にある場合にのみ適用されます。受領者が資産全体を第三者に自由に売却できるか否かで支配の所在を判断します。

なぜIFRSもレポを継続認識とするのか。 固定価格の買戻し義務は「価格変動リスクを保有したまま」という経済実態の直接の表れです。IFRS 9の2段階判定は、この経済実態を「リスクと経済価値」という枠組みで捉え、第1段階で確実に拾い上げる設計になっています。

US GAAP——売却3要件とeffective control

US GAAPでは、ASC 860-10-40-5が金融資産の譲渡を「売却(sale)」として認識するための3要件を定めています。

  1. 法的隔離(legal isolation):譲渡資産が譲渡人・譲渡人の管財人の手が届かない状態に置かれていること
  2. 担保・交換権利(pledge or exchange right):受領者が担保権を設定または交換する権利を持つこと
  3. 有効な支配の放棄(no effective control):譲渡人が有効な支配(effective control)を持たないこと

レポ取引は(3)の要件を満たしません。ASC 860-10-40-24は「有効な支配(effective control)」を詳細に規定しており、移転者が移転した金融資産を買い戻す権利と義務の両方を有する場合は、有効な支配を保持しているとみなします。

有効な支配が保持されるための3条件は以下のとおりです(ASC 860-10-40-24)。

通常のレポ取引は3条件をすべて満たすため、secured borrowingとなります。

さらに、ASU 2014-11によりASC 860-10-40-24Aが追加され、満期まで保有するレポ(repurchase-to-maturity)も一律にsecured borrowingとして処理することが明確化されました。

US GAAPが最も精緻な規定を持つ点:非現金担保の処理。 ASC 860-30-25-5は、担保が「非現金(有価証券等)」である場合の4シナリオを規定しています。

シナリオ担保提供者の処理担保受領者の処理
(a) 担保受領者が担保を売却・再担保できる場合担保をBSで別掲(再分類)担保を資産計上せず((d)と異なり売却・再担保権あり)
(b) 担保受領者が担保を売却した場合担保の別掲を継続売却収入を認識+返還義務を認識
(c) 借手デフォルト時担保を認識中止(没収)担保を認識+返還義務を取り消し
(d) その他(売却・再担保権なし)担保を継続認識担保をオフバランス

また、証券貸借取引において担保受領者(証券貸手)が受け取る非現金担保が「対価(proceeds)」として機能する場合は、担保受領者がオンバランスし、返還義務を認識します(ASC 860-30-25-8)。この点で、「対価」として受け取る担保かどうかの性質判断が処理を分けます。


設例

金額の単位は円です。

以下の4ケースは、移管指針第9号(旧:会計制度委員会報告第14号)の設例2-1〜2-4に基づく解説です。

ケース2-1:借手が自由処分権を有しない場合(現担レポの基本形)

前提条件

このケースの核心は「自由処分権がない」という点です。自由処分権がなければ、B社は受け取った社債を動かせません。B社にとって受け取った社債は「担保として預かっているだけ」であり、オンバランスする意味がありません。

3月1日(貸借約定日)

約定日は債券・現金どちらのやり取りも発生しないため、仕訳なし。

3月4日(受渡日)

現金担保の受渡しが発生します。「現金は認識・債券は非認識」の原則どおり、現金のみ仕訳します。

主体仕訳
A社(貸手)(借) 現金 105 / (貸) 預り金 105
B社(借手)(借) 預け金 105 / (貸) 現金 105

※「預り金」は「債券貸借受入担保金」等でも可。「預け金」は「債券貸借差入担保金」等でも可。

3月31日(決算日)

A社は貸し出した社債を引き続き保有しているものとして時価評価します(金融取引のため)。

主体仕訳理由
A社(貸手)(借) 有価証券 4 / (貸) 有価証券評価損益 4簿価99→時価103。増加額4を評価益計上
B社(借手)仕訳なし金融取引のため社債はB社BSに存在しない

【注記(A社)】 A社は、社債の使用が拘束されているため、当該社債を預り金に対する差入担保とみなして「その旨及び貸借対照表価額」を注記します。

【注記(B社)】 B社は自由処分権を有しないため、受け取った社債についての注記は不要です。

9月30日(中間決算日)

主体仕訳理由
A社(貸手)(借) 有価証券 1 / (貸) 有価証券評価損益 1簿価103→時価104。増加額1を評価益計上
B社(借手)仕訳なし同上

10月31日(返還日)

主体仕訳
A社(貸手)(借) 預り金 105 / (貸) 現金 105
B社(借手)(借) 現金 105 / (貸) 預け金 105

社債の返還については仕訳なし(「債券は非認識」の原則)。


ケース2-2:借手が自由処分権を有し、当該社債を売却した場合

前提条件

ケース2-1の前提条件(A社の社債:帳簿価額99、時価101;現金担保105;各期末時価:3/31→103、9/30→104)に以下を追加します。

このケースでの学習ポイントは、B社が借り入れた社債をBSに計上していないにもかかわらず、それを「売却」するという点です。BSにない資産を売る——このときにどう仕訳するかが核心です。

3月1日(約定日)、3月4日(受渡日)、3月31日(決算日)

ケース2-1と同じ処理です(自由処分権の有無は、自由処分権を使う前の段階では処理に影響しません)。

ただし、3月31日の注記は異なります。B社は自由処分権を有するため、「受け入れた有価証券について売却または再担保という方法で自由に処分できる権利を有する旨及び貸借対照表の時価(103)」を注記します。

6月1日(売却約定日)

B社はBSに計上されていない社債を売却します。BSに存在しない資産を売却するため、一度「保管有価証券」という勘定を計上したのち取り崩すという2本立ての仕訳を行います。

なぜ「保管有価証券」を介するのか——B社は社債を受け取っている「物理的な事実」はあります。その事実を一瞬だけ「保管有価証券」として認識し、同時に「売却した」という事実を記録するために取り崩します。これは会計上の内部ステップであり、読者には「借り入れた社債(BSになかったもの)を売ったときの技術的な処理」として理解してください。

B社の仕訳
(借) 保管有価証券 104 / (貸) 売却借入有価証券 104返済義務(obligation)を計上
(借) 未収入金 104 / (貸) 保管有価証券 104売却の記録(保管有価証券を取り崩す)

「売却借入有価証券」は、B社が借り入れた社債を将来返さなければならないという返済義務(負債)を表します。

A社(貸手):仕訳なし(借手が売却しているかどうかは貸手のBSに影響しない)

6月4日(受渡日)

B社の仕訳
(借) 現金 104 / (貸) 未収入金 104売却代金の受け取り

9月30日(中間決算日)

A社は引き続き社債を時価評価します。B社は「売却借入有価証券」(返済義務)を時価評価します。

主体仕訳理由
A社(貸手)(借) 有価証券 1 / (貸) 有価証券評価損益 1簿価103→時価104(ケース2-1の9/30と同じ。3/31に99→103で評価益4を計上済み)
B社(借手)(借) 有価証券評価損益 0 / (貸) 売却借入有価証券 0簿価104、9/30時価104。変動ゼロ

中間決算日(9月30日)では、B社はすでに社債を売却しており「売却借入有価証券」がBSに計上されているため、受入担保の注記は不要です(貸借対照表に返済義務が表示されているため)。

10月27日(買付約定日)

B社は借り入れた社債を返還するため、市場から社債を107で買い付けます。

B社の仕訳
(借) 有価証券 107 / (貸) 未払金 107社債の買付約定(約定日基準)

10月31日(受渡日)

主体仕訳
B社(借手・受渡)(借) 未払金 107 / (貸) 現金 107

A社:仕訳なし

10月31日(返還日・現金担保の返還)

主体仕訳
A社(貸手)(借) 預り金 105 / (貸) 現金 105
B社(借手)(借) 現金 105 / (貸) 預け金 105

10月31日(返還日・借入社債の精算)

B社は借り入れた社債(返済義務)を、買い付けた有価証券で精算します。

B社の仕訳
(借) 売却借入有価証券 104 / (貸) 有価証券 107返済義務と買い付けた現物を相殺
(借) 有価証券運用損益 3差額(107−104)を損失計上。借方計107=貸方計107

B社の通算損益確認


ケース2-3:借手が自由処分権を有し、売付有価証券の精算(ショートカバー)に使用した場合

前提条件

ケース2-1の前提条件(A社の社債:帳簿価額99、時価101;現金担保105;各期末時価:3/31→103、9/30→104)に以下を追加します。

「ショートカバー(short cover)」とは、ショートポジション(空売り状態)を解消することをいいます。保有していない社債を売り付け、それをA社から借りた社債で受け渡す——という取引構造です。

3月1日(有価証券の売付約定日)

B社はまず第三者への売り付けを約定します。

B社の仕訳
(借) 未収入金 102 / (貸) 売付有価証券 102売付の記録(約定日基準)

A社:仕訳なし

3月1日(借入社債を売付有価証券に充当)

B社は、3月4日の受け渡しに必要な社債を、A社から借り入れる社債で賄います。ここでも「保管有価証券」を介する2本立ての仕訳を行います。

B社の仕訳
(借) 保管有価証券 101 / (貸) 売却借入有価証券 101借入社債を一時認識(時価101)
(借) 売付有価証券 102 / (貸) 保管有価証券 101売付ポジションをショートカバー
(借方は上行と共通) / (貸) 有価証券運用損益 1差額1(102−101)を益として計上。借方計102=貸方計(101+1)102

3月4日(売付・受渡)

B社の仕訳
(借) 現金 102 / (貸) 未収入金 102売付代金の受け取り

3月4日(現担レポの受渡日)

主体仕訳
A社(貸手)(借) 現金 105 / (貸) 預り金 105
B社(借手)(借) 預け金 105 / (貸) 現金 105

3月31日(決算日)

主体仕訳理由
A社(貸手)(借) 有価証券 4 / (貸) 有価証券評価損益 4簿価99→時価103
B社(借手)(借) 有価証券評価損益 2 / (貸) 売却借入有価証券 2簿価101→時価103。返済義務増加分2を損失計上

9月30日(中間決算日)

主体仕訳理由
A社(貸手)(借) 有価証券 1 / (貸) 有価証券評価損益 1簿価103→時価104
B社(借手)(借) 有価証券評価損益 1 / (貸) 売却借入有価証券 1簿価103→時価104。返済義務増加分1を損失計上

10月27日(買付約定日)

B社の仕訳
(借) 有価証券 107 / (貸) 未払金 107買付の記録

10月31日(受渡日)

主体仕訳
B社(受渡)(借) 未払金 107 / (貸) 現金 107

10月31日(返還日・現金担保返還)

主体仕訳
A社(貸手)(借) 預り金 105 / (貸) 現金 105
B社(借手)(借) 現金 105 / (貸) 預け金 105

10月31日(返還日・借入社債の精算)

B社の仕訳
(借) 売却借入有価証券 104 / (貸) 有価証券 107返済義務104(時価)と現物107で相殺
(借) 有価証券運用損益 3差額3を損失計上。借方計107=貸方計107

B社の通算損益確認

発生日内容損益
3/1ショートカバー差益(102−101)+1
3/31売却借入有価証券の評価損(時価103−101)△2
9/30売却借入有価証券の評価損(時価104−103)△1
10/31精算時差損(107−104)△3
合計△5

検算:売付収入102 − 買戻し107 = △5。一致。


ケース2-4:現先取引の買手が自由処分権を有し、ショートカバーに使用した場合

前提条件

ケース2-3の現金担保付債券貸借取引を現先取引(売買契約)に置き換えます

このケースで示すとおり、現先取引(売買契約)と現担レポ(貸借契約)は、使用する勘定科目が異なるだけで、仕訳の構造はまったく同一です。 これが日本基準の「どちらも金融取引として処理する」という原則の実際の姿です。

3月4日(受渡日)の仕訳——勘定科目の違いがここに出る

現先取引では、「担保の預り金/預け金」ではなく、売買取引に対応した「借入金/貸付金」(または「売現先勘定/買現先勘定」)を使います。

主体仕訳
A社(売手)(借) 現金 105 / (貸) 借入金 105
B社(買手)(借) 貸付金 105 / (貸) 現金 105

※「借入金」は「売現先勘定」等でも可。「貸付金」は「買現先勘定」等でも可。

3月1日〜9月30日の仕訳(現先取引固有の受渡仕訳のみ下記に示し、その他はケース2-3と同じ)

ケース2-3の「貸手」をA社(売手)、「借手」をB社(買手)に読み替えます。売付約定・ショートカバー・各期末の時価評価の仕訳はケース2-3と同一で、勘定科目「売却借入有価証券」を「売却担保有価証券」に置き換えるだけです。

10月31日(返還日・現先取引の終了)

主体仕訳
A社(売手)(借) 借入金 105 / (貸) 現金 105
B社(買手)(借) 現金 105 / (貸) 貸付金 105

10月31日(借入社債の精算)

B社の仕訳
(借) 売却担保有価証券 104 / (貸) 有価証券 107ケース2-3と同じ精算。科目名が「売却担保有価証券」(現先取引の場合)
(借) 有価証券運用損益 3差額3を損失計上。借方計107=貸方計107

B社の通算損益:ケース2-3と同じ △5


実務上の注意点

注意点1:自由処分権の有無を契約書で確認する

自由処分権(受け取った担保社債を売却または再担保できる権利)の有無は、仕訳の構造を大きく変えます。自由処分権がなければケース2-1のシンプルな処理で済みますが、自由処分権があり実際に行使した場合はケース2-2〜2-4の複雑な処理が必要です。

契約書(現先取引の基本契約書または現担レポの契約書)を確認し、受け取った担保に処分権が付与されているかを把握してください(移管指針第9号 設例2-1〜2-4の前提条件から確認)。

注意点2:注記の対象と内容

注記については以下の整理が重要です(移管指針第9号 設例2-1〜2-4)。

主体自由処分権の有無注記の要否
貸手(社債を差し入れた側)問わない常に必要(「その旨及び貸借対照表価額」を注記)
借手(社債を受け取った側)自由処分権あり(かつ売却等がない場合)必要(「その旨及び貸借対照表の時価」を注記)
借手(社債を受け取った側)自由処分権あり(かつ売却等した後)不要(返済義務がBSに計上されているため)
借手(社債を受け取った側)自由処分権なし不要

注意点3:「売却借入有価証券」の時価評価の方向

「売却借入有価証券」は、借り入れた社債の「返済義務」を表す負債です。

「有価証券(資産)の評価益は時価上昇」と混同しやすいため注意が必要です。

注意点4:US GAAPの非現金担保——「対価」性の判断

US GAAP(ASC 860-30-25-8)では、非現金担保(有価証券担保)が証券貸借取引の「対価(proceeds)」として受け取られる場合に、担保受領者がオンバランスします。

一方、デリバティブ契約のCSA(Credit Support Annex)に基づき差し入れられた有価証券担保は、デリバティブの取引条件に付随して差し出されるものであり、証券貸借取引の「対価」ではないためオフバランスとなります(ASC 860-30-25-8)。

この「対価かどうか」の判断が、US GAAP実務における担保処理の分岐点です。


3基準の比較早見表

日本基準IFRSUS GAAP
根拠条項企業会計基準第10号 第9項(3)、移管指針第9号 第129項IFRS 9.3.2.6(b)ASC 860-10-40-24
判定ロジック支配の移転(買戻し合意があれば支配移転なし)+財務構成要素アプローチ1段階:リスクと経済価値の実質的全保有→継続認識 / 2段階:支配の保持(通常はレポで不要)売却認識の3要件 / (c)「有効な支配の放棄」なし→secured borrowing
レポの結論担保付融資として継続認識(認識中止なし)担保付融資として継続認識(認識中止なし)Secured borrowingとして継続認識
「現金は認識・債券は非認識」明示的に規定(第129項)同原則と整合(基準本文の用語は異なる)同様(ただし非現金担保は4シナリオで別途規定)
自由処分権の影響注記要件に影響(処分した場合は売却借入有価証券を認識)同様(支配の判定・注記に影響)担保の再分類(ASC 860-30-25-5(a))に影響
非現金担保の精緻規定なし(現金担保が主)基本的な原則のみASC 860-30-25-5で4シナリオを詳細規定
開示の焦点差入担保・受入担保の時価注記(貸手常時、借手は自由処分権条件)類似(IFRS 7の担保開示要件と連動)ASC 860-30のロールフォワード開示(売却・再担保の状況)など詳細
主な基準改正2024年7月:JICPA移管指針→ASBJ移管指針第9号に移管(内容同一)2014年:IFRS 9制定(IAS 39からの移行)2015年(公開企業):ASU 2014-11によりrepurchase-to-maturityのsecured borrowing化を統一

よくある疑問・誤解

疑問1:現先取引は「売買」なのに、なぜ売買損益が生じないのか

現先取引は法的には売買契約ですが、買戻しが契約で確定しているため、経済実態は担保付借入です。日本基準では「買い戻すことにより当該取引を完結することがあらかじめ合意されている取引については、その約定が売買契約であっても支配が移転しているとは認められない」と整理されています(企業会計基準第10号 第9項(3)の趣旨)。

会計は「形式より実質」を重視します。法的形式が「売買」であっても、経済実態が「担保付借入」であれば、担保付借入として処理します。

疑問2:「認識中止しない」とはどういう意味か——実際に何が残るのか

認識中止しないとは、貸手(資金を借りた側)のBS上に、貸し出した社債が引き続き計上され続けることを意味します。

取引後のBSをイメージすると、貸手は「社債(資産)+現金(資産)+預り金(負債)」という構造になります。社債は引き続き残り、現金は担保として入ってきて、その見合いの預り金(返済義務)が負債として立ちます。

疑問3:自由処分権の有無で何が変わるのか

自由処分権の有無は、仕訳ではなく注記に主に影響します(ただし自由処分権を実際に行使した場合は仕訳も変わります)。

疑問4:現担レポと現先取引は会計処理が違うのか

使う勘定科目が異なるだけで、仕訳の構造は同一です。ケース2-3(現担レポ)とケース2-4(現先取引)を比較すると、3月4日の受渡時の科目が「預り金/預け金」(現担レポ)から「借入金/貸付金」(現先取引)に変わるだけで、他の仕訳パターンも最終損益も完全に一致します。

これは日本基準が「現先取引は売買契約であっても金融取引として処理する」と定めているからです(移管指針第9号 第129項の趣旨)。

疑問5:IFRS 9はリスクと経済価値だけで判定するのか

IFRS 9の認識中止判定は2段階構造です。まず「リスクと経済価値の移転の程度」(3.2.6)で判定し、どちらでもない中間状態にある場合に限り「支配の保持」(3.2.9)で判定します。

レポ取引は第1段階(3.2.6(b):リスクと経済価値を実質的に全保有)で継続認識が確定するため、第2段階の判定が不要です。

疑問6:レポの担保社債は時価評価しなくてよいのか——借手は評価しないのか

貸手は時価評価します。借手は原則として評価しません。

貸手は社債をBS上に引き続き保有しているため、売買目的有価証券であれば通常どおり時価評価します(ケース2-1の3/31・9/30の仕訳を参照)。

借手は社債をBS上に認識していないため、通常の意味での時価評価は行いません。ただし、借手が自由処分権を行使して社債を売却した場合は「売却借入有価証券」(返済義務)を時価評価します——これは「社債の評価」ではなく「返済義務の評価」です。返済義務は時価上昇で損失、時価下落で利益となる点に注意が必要です。


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